小さな頃には両親と訪れ、両親が亡くなった後には自分の住む場所となった祖父母の古い家。

今も変わらずに同じ場所に残っている。

本当に久しぶりに目にしてホッとして目頭が熱くなる。

祖父母がたて続けに亡くなり施設に入るときに弁護士の平原さんには売ってお金にして欲しいとお願いしたのに、平原さんはいつか帰りたくなったときに無くなっていたら悲しいでしょう?と、この家をそのまま残して近所の人に管理を頼んでくれたのだ。
施設を出て働き始めてからは時々自分でも掃除に来たり数日泊まったりしていたのだが、古くなってきたしそろそろ限界かなぁ?なんて考えていた。
平原さんはそれなら借家として貸してみるかい?なんて言うけど、こんな田舎の古い家を借りてまで住みたい人なんて居るのかなぁ?と甚だ疑問で考え中のままだった。

「へぇ?ここが鈴加の住んでた家なのか?」
古い民家が珍しいのか?高嶺さんは玄関の引き戸を開けるなり興味深そうにキョロキョロと見回している。
その様子に笑いながら私は家中の雨戸を開けて歩く。
すぐに高嶺さんも手伝ってくれた。
平屋の古民家だが近所の人がこまめに換気に来てくれるみたいでカビ臭いこともなくきれいなままだ。

残念ながらガスも電気も止まっているので、途中で購入したペットボトルのお茶とお弁当を縁側に並べてお昼ごはんを食べる。
暖かい日差しが降り注ぐ縁側は小さな頃からの私のお気に入りの場所。

「いいなぁ~こう言うの!後で昼寝したいかも。」
「良いですよ!ここなら昼寝には最適ですから!」

笑顔で即答した私に高嶺さんも笑ってくれる。
「何にもない田舎ですけど、私はこの家が好きなんです。」
「そうか……俺も好きになりそうだよ。」

そう言ってくれた高嶺さんに思いきってこの家を借家にする提案を平原さんにされたことを話してみる。

「親父がそう言うなら誰か借り手がいるのかもしれないな。でも鈴加の気が進まないなら無理して受けなくていいんじゃないか?」
「それはそうなんですけど……でもこのままなのもいけない気がして……」

どうしたらいいのか分からないもどかしい気持ちに決着をつけたくてここに来たのに、結局まだ思いきれなかった……。