夕食をひとりで簡単に済ませてシャワーを浴びる。
入浴はひとりでいるときはまだ心配だからシャワーにしておけ!と出かける間際の高嶺さんに言われたので素直に指示に従ってみた。
もうすっかり大丈夫だと思っていても、立ち上がった拍子にフラッとしてしまう事がある。
高嶺さんだけでなく実咲さんや相良先生まで心配してくれて様子を見に来てくれた。

こんなふうに誰かに常に心配されるのは久しぶりで戸惑うけれど、なんだか嬉しいと思ってしまう自分が不思議だった。
ひとりで頑張ることが当たり前だったのに……お姉さんみたいな実咲さんに甘えてみたり、相良先生に叱られたり、高嶺さんに怒られたりするのも良いなぁなんて思えるようになってきた気がする。

「良いんじゃない?そう言うのなんか家族みたいだよね?」
「家族?」
「そうだよ!すずのことを家族みたいに思うから甘えてほしいって言ってくれるし、叱ってもくれるし怒ってくれるんだよ!」
「そうなのかな?家族かぁ~なんか良いのかな?私なんかで……」

「すず!私なんかはダメ!いつも言ってるでしょう?そう言う後ろ向きな発言はダメだから!何にも難しい事考えないで素直に甘えときなさい!私にもね♪」
「うん。いつもありがとう芽衣子♪」

寝る前の数十分を芽衣子との電話に費やして、月曜日には出勤すると約束して電話を切った。
芽衣子から出た家族という言葉に久しぶりに両親や祖父母を思い出して、それにつられるようにあの日を思い出す。
思い出す度に痛みだす左腕をさすりながら布団に潜り込んでそのまま眠る。
たぶん今夜は夢に見る。
痛みと恐怖と頑張ってもいつも霞んだようにしか思い出せないはつ恋の男の子の顔。
目が覚めたら泣いてるかも?
高嶺さんに見つからないと良いなぁ……。