翌日の金曜日は午後からの勤務で幸い病院からの呼び出しもなかった俺は家で珍しくのんびり過ごすつもりでいた。

対して鈴加は体調も良いんだから仕事に行くと言い張って、朝から俺とちょっとしたケンカになり現在進行形でリビングの隅で座り込んで俺を睨み付けている。

残念ながら全く威力がないし可愛いだけで、俺としては笑いをこらえるのに苦戦中だ。

「いい加減あきらめて部屋に戻って寝てろ!会社には病休で連絡してあるんだろう?相良から聞いてるぞ?」

「でも!もう大丈夫だし……仕事忙しいかもだし!」

「かも…ねぇ?そもそも大丈夫かどうかを判断するのは鈴加じゃなくて主治医の俺だ!まだ真っ青な顔してるくせに大丈夫な訳ないだろう!」

俺が怒鳴るとさすがに申し訳程度にうつむくが、すぐに顔をあげて何か言い返そうと言う素振りを見せる鈴加を、俺は問答無用で抱き上げて部屋に運ぶとベッドに放り投げた。

「痛い!医者のくせに何するのよ!」
怒った顔も可愛くてついニヤケそうになるのを必死でごまかして鈴加の腕をとる。

「何?」

何かを察知して急に固まった鈴加に、わざと見えるようにベッドの下から注射器を取り出す。

我ながら鬼畜だなぁとは思ったが、どのみち今日のうちに打つつもりでいたのだし、ちょっとしたお仕置きだ。

「やだ!何?」

とたんに怯えて逃げようとする鈴加を体重をかけて捩じ伏せて、さっと注射の準備をする。

「おとなしくしてろ!動くなよ危ないから!」
そう言ってゆっくりその腕に注射器の針を沈めた。
震える鈴加を押さえつけながらも全てを終えて顔をのぞきこむ。
てっきり泣いているかと思いきや、逆にかなりむすっと怒った顔をしていて力が抜けて鈴加に身体を乗せたまま笑ってしまった。

「ひどい!なんで笑うんですか!」

鈴加にポカポカと叩かれたが、俺は笑い続けた。
しばらくそうしているうちに静になり、心配で身を起こすと、鈴加はいつの間にか眠っていた。
やはりまだ身体が辛いんだろう。

俺もそのまま鈴加のとなりに寝そべって眺めているうちに睡魔に誘われるように目を閉じていた。