なにやってんだ?
こんな格好で寝て息苦しくないのか?

朝の引き継ぎをナースステーションで済ませた俺は拘束時間終了と同時に病院を飛び出した。
今朝早くに出勤した相良からは家で寝てるはずだし、念のために実咲さんに様子を見に行かせたと聞いたので急ぐ必要がないことは分かっているのだが気持ちは焦る。

マンションに走るように飛び込んで常駐のコンシェルジュに驚かれてしまう。
それを苦笑いで制して部屋に向かった。

それでも、さすがにドアを開けるときは音に気を付けた。
寝ているかもしれない鈴加を起こさないためだ。
そーっと開けて体を滑り込ませると耳を澄ます。
何の音もしない……良かった!寝てるんだな。
俺はホッとしてまたそーっと閉める。
そしてすぐにリビングを突っ切り鈴加の部屋に向かった。

予想通り鈴加はベッドで眠っていた。
まるで胎児みたいに丸くなって布団の中に潜り込んで寝ていたのだ。
最初は居ないのか?と思って焦ったが、よく見たら布団が小さく上下していて……
そーっとめくったら中で鈴加が丸まっていたのだ。

可愛い!なんだこれ?
思わず抱きしめたい衝動に駈られたが、なんとか抑え込む。
そんなことをしている場合ではなかった!
眠っている間にさっさと済ませないと!

俺は病院から持ち帰った紙袋から注射器を取り出すと起こさないように気を付けながらそっと鈴加の腕をとる。
手早く消毒して慎重に針を刺していく。
刺した瞬間に鈴加がわずかに呻いたのでドキリとしたが起きる気配はなかった。
それに安堵しながらも油断はできない。
ゆっくりと薬を血管に注入していく。
この薬は血管痛を感じる事があるので痛みで鈴加が動くのでないかと気が気ではない。
全てを注入仕切って抜針したところでやっとホッと息をついた。

昨夜は痛いだの嫌だの言える状態じゃなくておとなしく治療を受けていたが、回復しかけている状態の今はきっと嫌がるだろうし、たぶん間違いなく拒否するだろうから、眠っている間に済ませようと決めていたのだが、ここまで上手くいくと逆に心配になってくる。

相変わらず丸くなってる鈴加の額にそっと手を伸ばして触れてみる。
熱はないな……良かった。
続けて頬を撫でてそのまま手を下げて行き小さな唇に指を這わせる。
そっと撫でるとわずかに唇が開いて俺を誘う。
思わず身体を屈めて唇を押し当てた……
予想通りやわらかくて気持ちがいい……もっと感じたい……。
「う~ん……」
不意に声をあげた鈴加に焦ってあわてて身体を離す。

「ダメだ!病人になにやってんだ俺は?」

寝返りを打った鈴加にそっと布団をかけ直して部屋を出た。