翌朝は怠い身体に鞭打って起きあがり、何とか支度をして部屋を出ようとドアを開けたところで、ドアの前に立っていた実咲さんに叱られた。
「やっぱり!もしかしたらと思って寄ってみたけど、まさか本当に出てくるとは思いませんでした!」
「すみません……。」
言い訳のしようも無くてただ項垂れるだけの私を問答無用で部屋に押し込めた実咲さんは、今すぐベッドに戻りなさい!!さもないと高嶺さんに電話しますよ!とスマホをちらつかせて脅しまでかけてくる。
あまりの剣幕にタジタジになりながら、私はすごすごとベッドに戻ることになったのだった……。

おまけに実咲さんは親戚の姉だと名乗って会社に電話し、体調が最悪なので鈴加は休ませます!と課長から強引に病気休暇を2日も取得してくれたのである。
ありがたいとは思ったが……2日も休まなくても……。
そう口にしたら実咲さんにはまた叱られました。

「まったく自覚無いんだから!昨日は本当にびっくりしたのよ?真っ青だし話すらできないし……死んじゃうかと思ったんだからね!」

いつもは職業病って言うくらいに丁寧な話し方の実咲さんが素で怒っていてびっくりする。

「ごめんなさい……でも私は、かなり丈夫なんで、そんな簡単には死にませんから……何せ石灯籠の下敷きになっても生きてたくらい丈夫なんですよ!だから泣かないでください!」

私を心配しすぎて泣き出した実咲さんにおろおろしてしまって、さらにバカなことを言ってしまう。

「石灯籠の下敷き?なんですかそれ?」

私の話が衝撃的だったらしく、きょとんとしていきなり泣き止んだ実咲さんが普通の口調に戻って問いかけてきたので、以前高嶺さんにしたのと同じように子供の頃の神社での事故を話して聞かせた。

「そんな事があったんですね…けがは大変でしたでしょうが、生きていてくれて良かったです。」

実咲さんにしみじみと言われて本当にそうだなぁと思わず頷いてしまう。

「さて、おしゃべりは終了です!私はそろそろ仕事に行かないと!鈴加さんはちゃんと高嶺さんが帰ってくるまでおとなしく寝ていてくださいね!」

実咲さんはそう言うと部屋を出ていった。
すぐに玄関のドアが閉まる音がして、続いてオートロックのドアの鍵がガチャンと閉まる音もする。

またひとりぼっちになってしまった……
ちょっとさみしくて、掛け布団を頭まで被って布団の中で猫の子みたいに丸くなってみる。
それが温かくて気持ちよくて、知らない間に眠っていた。