嘘だろう?
実咲さんとディナーだ♪とか言いながら、浮かれて帰っていった相良が戻ってきたと思ったら、なぜか?その腕にはぐったりした鈴加が!?

「何があったんだ?なんで鈴加が?」

焦ってつい早口で相良に詰め寄ると、相良はわかったから!落ち着けよ!と言いながら鈴加を処置室の寝台に寝かせる。
俺はすぐに鈴加の顔を覗きこんだ。
鈴加はやけに青白い顔で目を閉じていたが、眠っているわけではなさそうだ。

「高嶺。今説明するから!その前にとりあえず採血して検査のオーダーしてくれる?」
「わかった。」
俺は言われるままに看護師に指示を出し、鈴加の脈や呼吸を確認する。

「で?何があったんだ?」
幾分か気持ちが落ち着いたので改めて状況説明を求める。
相良はディナーの帰りにマンション前で動けなくなった鈴加を見つけた所から話してくれた。

「このバカ!もともと貧血気味だってのに献血なんかしたのか?で?本格的に貧血おこしてぶっ倒れたわけか?」
「みたいだねぇ~よく一人でマンションまで帰ってきたと思うよ?頑張ったよねぇ~そこは誉めてあげてよ?」
「何が誉めろだ!バカだろ?まったく。自業自得だからな治療はおとなしく受けろよ!!」

俺はわずかに頷いた鈴加にホッとすると、問答無用でその細い腕に採血のための注射器の針を突き刺した。

鈴加が貧血な事はその後の検査結果からも明白で、とりあえず鉄分補給のための注射をして様子を見ることにした。
もちろん嫌がっていた鉄剤の飲み薬も処方して、治療で少し顔色が良くなって立てるようになった鈴加を相良に頼んでマンションに送ってもらった。

本当なら一緒に帰ってそばに付いていてやりたかったが、仕事中ではどうにもできない。
おとなしく寝ていろ!
明日は休め!
と言う俺の言葉に素直にうなずいて、まだふらふらと危なげな足どりで帰っていった。

もっと早く嫌がっても薬を飲ませておけば良かった。
献血なんかお前には無理だと言っておくべきだった。

それにしても……なんで注射嫌いな鈴加が献血なんかしたんだ?

明日仕事が終わったら必ず問いただそう!
俺はそう思いながら次々に運ばれる患者の治療に当たった。
今夜も長い夜になりそうだ……。