「ねぇ?すずって確か注射ダメな人だったよね?」

休息時間が始まってすぐに芽衣子からそう聞かれて、飲んでいたお茶にむせそうになる。

「なに?なんでいまさらそんなこと聞くの?」
「いやぁ~分かってるからこそ聞くんだけどさぁ~これはすずが自分から希望出したんじゃないよね?」

そう言って差し出されたのは、今日の午後に行われる献血の協力者名簿だった。

年に2回定期的に社内から協力者を募って行われる献血は、会社としては社会貢献に位置付けられる大事な行事で、毎回必ず部署から数名の協力者を出すことが義務化している。
私は注射が天敵並にダメだから1度もしたことがない。
部署で親しい人はみんな知っているので、今までに無理に協力を強要されたこともなかったから、存在すら気にしていなかったのだか……。

「なんで?うそでしょう?」

芽衣子が見せてくれた名簿にはなぜなのか?私のフルネームがしっかりくっきり印刷されているのだ!!

どうしよう……。

「これ、私が昨日作った後に書き替えられてる。ご丁寧に総務の申請も書き替えられてるし、おまけにすでに周知として全員に回った後みたいなんだけど?すずは目を通した覚えある?」

部署の庶務を兼務している芽衣子が作ったはずの協力者名簿。

「ない……だって周知の文書っていつも芽衣子が作るから、私は最後にしか回ってこないし……」
「だよね……これはもう嫌がらせだよね?昨日の3人組かしら?今朝はおとなしかったから油断したわ。」
「それは……わからないけど。証拠がないし。」
どんどん顔色が青くなっていく私に芽衣子が心配して須藤さんに相談してこようか?と言ってくれたけど、今さらどうにもできない。
「ごめんね!代わってあげられたら良かったんだけど」
「大丈夫。芽衣子は今日は午後から休みでしょう?私ならなんとか我慢して頑張るから……」
「頑張るって……本当に大丈夫?誰かに」
芽衣子がそこまで言ったところで休息時間終了のチャイムが鳴り、私たちはそれぞれの仕事に戻った。