朝の職場は戦場と言うか修羅場のようだ。

前日の午後に郵便で届くお客さまからの保険金の請求書類を、別の担当部署が開封して選別しスキャナーにかける、それが始業開始と共に一斉にデータで社内に飛んでくるので、審査担当の社員は朝からパソコンにかじりついて身動きがとれなくなる。
1件でも多く早く処理することが、そのままお客さまへの支払いを迅速にする。
けれどミスは許されない。
だから、みんな見落としがないように注意しながら必死で画面上の書類の細部にまで目を通す。
みんなが集中してシーンとして、無駄な会話もないこの時間が最初はかなり緊張した。
審査に関わらない自分が立てる物音に先輩方が気を取られて集中力が途切れては大変だからと緊張から身動きができなかったくらいだ。

今ではすっかり慣れたが、それでもこの時間は気を使う。

カタカタとキーボードを叩く音だけが響く事務室内で、私はひたすらにお客さま宛の文書の発送作業をしていた。

支払いに関するお知らせなどの文書の発送業務は別の担当部署が行っているが、書類に不備があったりして支払いが遅れてしまう場合などにはお詫びの文書を作成して送付しなければならない。
午前中に私がするのがこのお詫びの文書の発送作業なのだ。
文書自体は規定の様式があるのでお名前や状況等を入力していくだけで簡単にできる。
それを印刷して上司に確認してもらったあとに総務課で社印を押印してもらってから発送する。
あて先を間違えたら誤発送になってしまうし、責任重大なお仕事なのである。

そんないつもの仕事を黙々とこなしている間に10分間の休息時間を知らせるチャイムが鳴った。

社員の健康と仕事の効率化のためにと午前と午後に一回ずつ、10分間の休息時間が設けられている。

私はこの時間には、持参した水筒のお茶を飲みながら芽衣子と雑談をして過ごしている。