「婚約者がいるのは事実だもの」

「……そっかー」

婚約破棄のチャンスかもと一瞬頭に過ぎったけど、天花寺の気持ちを利用するようなことは気が進まなかった。

久世との婚約破棄をして天花寺と上手くいけば、伯母様も文句は言わないと思う。

だけど、それは天花寺に対して失礼だ。



「まあ、いっか。……抜け駆けさせてもらおうかなー」

「へ? ちょっ」

「手、出して」

「っ!?」

耳元で雨宮の声がして、心臓が大きく弾む。

突然の近い距離と耳に息がかかって、頬に熱が集中していく。


「ちょっ」

「んー? なに?」

身体を硬直している私の傍で、雨宮が小さく笑った気がした。


こ、この男わざとやってるんじゃないの!?