落ち着け、落ち着いて話さないと。

流されてはダメだ。


天花寺の浴衣の袖を掴んでいた手を離し、僅かに距離をとる。




「私には婚約者がいます」

その言葉に天花寺の目が大きく見開かれた。


さすがに今の時代に婚約者がいるのは珍しい方だから、衝撃的だったはずだ。

たぶん天花寺たち三人組にもいないだろうし。



「どんな人か聞いてもいい?」

「天花寺様もご存知の方です」

「……誰?」

「久世光太郎です」

「……彼か、そっか」


案外身近な人間で驚いたのか天花寺は悩ましげに眉を下げてため息を漏らした。

さすがに婚約破棄を望んでいるなんて今の空気では言えない。

言ったら確実にこんがらがってわけのわからないことになってしまいそう。




「でも覚えておいて。俺の気持ち」