桃恋特別編〜鬼祭り編〜全編

これは、桃太郎も鬼姫もまだ幼かった頃のおはなしである〜







鬼ヶ島では、毎年夏になると夏祭りが開かれていた。

たくさんの屋台が出て、大人の鬼達も子供の鬼達も心から鬼祭りを楽しんでいた。

鬼姫も例外では、なく鬼祭りを心待ちにしていた。

「父上、私も鬼祭りに行きたい」

鬼姫は、そう言って鬼王の着物の裾を握りしめていた。

「悪いな…鬼姫…今年は、行けそうに無いんだ…」

忙しそうに手を動かしながら鬼姫の事を見ないで答える鬼王に鬼姫は、悲しみと怒りが込み上げてきた。

「父上など知らぬわ。私一人で行く」

鬼王は、そう吐き捨てると棲み家の洞窟から走り去って行った。

「父上のバカ…そんなに仕事が大切ならもう帰ってやらぬわ…」

鬼姫は、無我夢中になって走り何人かの鬼にぶつかりかけ注意された。

それでも走り続け気づいたら海に来ていた。

はあはあ…

ドーン…ドーン

突然空に火の玉が2つ上がったと思うと爆発し聞いたことの無い轟音が立て続けにあたりに響きわたった。鬼姫は、怖くなり震えが止まらなくなった。

「なっ…なんじゃいまのは…」

震える鬼姫に、声をかける物がいた。

「お前花火を知らねえのか?」

思わず振り返る鬼姫。そこには、見たことのないツノのない鬼が立っていた。

「なっ…何者じゃ?お主なぜツノが無いのじゃ?」

怖くて仕方ない鬼姫にとってその鬼は、救世主のように思えた。

「なぜって俺、人間だし。おじさんの漁について来て嵐に巻き込まれちまったんだ。俺の名前は、桃太郎。君の名前も教え…どうしたんだよ」

突然顔を曇らせ震えだした鬼姫に、桃太郎は、駆けよろうとした。

「くるな…きっ…来たら殺すぞ」

震える声で鬼姫は、桃太郎を睨みつけた。

桃太郎は、鬼姫の近くまで行くとしゃがみこみ。

「俺は、お前を絶対に傷つけたりしねーよ」

そう言って小指を立て鬼姫に差し出した。

鬼姫は、さらに強いまなざしで桃太郎をにらみ。

それでも笑顔を崩さない桃太郎。

「君も小指をだして。指切りって約束を守りますって言うおまじないなんだよ」

それを聞いて少しだけ表情を緩める鬼姫。

そして、震える手で小指を出してきた。

「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。指切った」

「これで僕たちは、友達だね」

笑顔で話しかける桃太郎。

そんな桃太郎を見ているとほんの少しだけ信用してもいいんじゃ無いかと鬼姫は、思えた。

「私は、鬼姫じゃ…」

震える少女は、肩より少し長い黒髪でまつ毛は、長く、くりくりとした大きい瞳は、まるで黒真珠のように輝いていた。

瞳の色は、紅葉のような美しい紅をしており、少し少しつり上がった目がとても色っぽく思わずニヤけそうになる桃太郎。

この時桃太郎は、初めて人を好きになると言う感情を覚えた。つまりは一目惚れと言う事なのだが…桃太郎は、何故胸がドキドキしてこの娘を見ていると恥ずかしくて嬉しくて、このまま時間が止まればいい。そう願わずには、いられなかった。

「ぷっ。あははは」

突然笑い出す鬼姫にムッとなり桃太郎は、聞き返した。

「なんで笑うんだよ?」

ほっぺを膨らませ怒る桃太郎。それを見た鬼姫は、さらに笑った。

「あははは…だっ…だってお主…ぷっふふふ…ほほを桃の様な色に染めてほほをふくらませたらまるで桃では、ないか…あははは」

鬼姫は、ツボに入ったのかさらに笑い転げた。

恥ずかしさでさらに赤くなる桃太郎…それでも彼女の笑顔が見れてさらに胸が熱くなるのを感じるのだった。

「…鬼姫って笑うとすっげー可愛いよな…」

思わず心の声が漏れ出ていた。

「えっ?」

鬼姫は、聞こえていたのか急にかおを真っ赤に染め上げ、「おっ…お主にそのような事を言われても嬉しくなんてないぞ」

そう言うと、慌てて後ろを向き鬼姫は、すぐに貝がらを拾い始めた。

「何してるんだ?」

桃太郎がたずねると鬼姫は、恥ずかしそうな声で答えてくれた。

「お主そんな事も知らぬのか?貝がらで皿や湯のみを作るのは、知っておるよな?」

「おっおう」

はっきり言って知るかー!

ってのが本音だが、言うとダメ出しされそうなので桃太郎は、知ってると答えた。

「うむ…そこまでバカじゃ無くてよかったわ。より質のいい貝がらほどより質の良い焼き物が出来るのじゃ。つまり、質の良い貝がらほどより良い物と交換してもらえるんじゃ」

鬼姫先生の説明をわかりやすく言えば、鬼ヶ島は、物々交換が主流と言う事らしい。

桃太郎達は、その後たくさんの貝がらを拾った。ほとんど安い貝がらばっかりだったが中には、めったに手に入らない貝がらもあり鬼姫がほめてくれた。

「よし、こんなもんでよかろう。行くぞ」

そう言って鬼姫は、桃太郎の手を引っ張って走り出した。

「待ってくれよ」

桃太郎は、どこに連れて行かれるかわからない不安よりこうして鬼姫と一緒に走っている事に幸せを感じていた。

はあはあ…

「だらしないのう」

息を切らす俺を見て笑う鬼姫の笑顔を見ているとなぜか疲れが飛んで行く。そんな気がした。

「ここは?」

桃太郎が聞くと、鬼姫は、満面の笑みを浮かべて答えた。

「ここは、鬼祭りの会場だ。待っておれ、お主のためにお面と交換してくる」

そう言って鬼姫は、1つの屋台に走って行き狐のお面と交換戻ってきた。

なんで狐なんだよ、と笑いながら頭にお面をつける桃太郎。

そのお面をつけた桃太郎の心は、満たされていた。

初めて鬼姫がプレゼントしてくれた物だと思うとそれだけで嬉しさが滝のように溢れ出してきた。

「ありがと鬼姫一生大切にするよ」

この時の桃太郎の言葉は、決して嘘では、無かった…しかしその約束は、守られる事は、無かった…

「何を大げさな。たかがお面1つで」

口では、そう言ってるものの鬼姫も、桃太郎の言葉に喜びを感じていた。

2人は、祭りの会場に飛び込んで行った。

色んな屋台があり思わず目移りしてしまった。

しかし桃太郎は、何を買うか決めていた。

鬼姫の美しい髪に似合う髪飾りを買ってあげたいと思っていた。

そして髪飾り屋さんを見つけた。

「おじさんこの赤珊瑚のついた髪飾りとこのハートの貝がら交換してもらってもいいかな?」

桃太郎がたずねると髪飾り屋のおじさんは、驚いた顔見せ喜んで交換してくれた。

鬼ヶ島では、赤珊瑚なんてありふれた物で大した価値などなかった。しかし桃太郎にとって赤珊瑚は、とても貴重で価値のある物だった。

「鬼姫、これプレゼントだよ」

桃太郎は、絶対喜んでくれると期待を込めて髪飾りを渡した。

その反応からさぞ良いものをくれると期待した鬼姫。

しかしそれは、ありふれた赤珊瑚の髪飾りだった。

「あっ…ありがとう」

さほど嬉しくも無さそうにする鬼姫に、少し苛立ちを覚えた。

「嬉しくなかった?」

嬉しくなど無いのは、表情を見れば明白だった。しかし桃太郎は、確かめずにいられなかった。

「そんな事ないぞ」

無理に笑顔を作る鬼姫。

その作り笑顔に、桃太郎は、さらに怒りが込み上げた。

「いらないならはっきり言えよ。君に喜んでもらおうとハートの貝がらを使ってまで買った俺がバカだったよ」

その言葉を聞いた鬼姫は、カッとなって言い返した。

「こんな安物にハートを使ったのか?お主がそこまでバカとは、思っておらぬかったわ」

言い切った後鬼姫は、後悔した。桃太郎は、人間で鬼の常識なんて知らないで当然…

ならば赤珊瑚も、高いと思い交換したのではと?しかし後悔するのが遅すぎた。

気づいた時には、桃太郎は、走り去ってしまった後だった。











ふざけんな…お姫様だからっていつも良いものもらってるのか知らないけど、何もあそこまで言わなくて良いじゃねーか。

桃太郎は、無我夢中で走っていた。

どこを目指すでなくただの鬼姫から少しでも、離れたい。ただそれだけを考えて走り続けていた。

はあはあ…

幼い桃太郎は、もう体力の限界だった。

そして桃太郎は、鬼祭りの会場の中で倒れてしまった。