王子様なんて、小説の中だけの話って思ってたけど...


わたしの高校には、本物の王子様がいる。


だけど、例え同じ学校にいたとしても、


わたしみたいな平民と王子様が結ばれることはない。


わたしがお姫様になんて...なれるわけがない。


だけど、平民だって王子様に憧れるくらいは、いいよね?


...まさか、その王子様と関わりを持てるなんて、

わたしは思ってもみなかったーー。



「ハル~次はなに読んでるの?」


小説を読んでいると、前にヒョコッと現れたのは中学のときから仲のよい友達の仲田紗由理(なかたさゆり)。


入学して、10クラスもあるうちの同じクラスになれたことを、未だに奇跡と思える。


その顔は若干あきれぎみである。


「紗由理もこれ絶対読んだほうがいいよ!胸キュン間違いなしだから!!」


わたし、真瀬晴香(ませはるか)は、ちょうど読み終えた小説を紗由理に押し付けた。


「読まないよ!どうせ王子物でしょ?」


「そうだよ!?当たり前じゃん!!」


「そんなの毎回読んでるから、ますます現実が見られなくなるんでしょーが!」


小説を読む気なんてないのに、ペラペラーとめくるだけめくってトンと机の上に置かれた。



そう言う紗由理の性格は、たしかに現実的である。


将来性のない人とは付き合わないタイプといったら分かりやすいだろうか。


わたしより背が高くて、顔付きも大人っぽいから童顔のわたしが並ぶとまるで先輩と後輩みたいに見られる。


まあ童顔なことコンプレックスじゃないんだけどね。


「現実には王子様なんていないって言うの?紗由理はもう少し夢見たほうがいいと思うよ!?」


この前のショッピングのときだって、“こんなの日常生活で必要ないね”なんて言いながら品物を見ていた。


「まあ、ハルが描いている白馬の王子様はいないでしょうね」


「白馬の王子様って!わたし、そこまで夢見てないよ!?」


白馬の王子様を思い描くのはさすがに小学校低学年まででしょ!!


「あれ、そうだったの?私はてっきりそれくらいだと」


「若干馬鹿にしてるでしょ!!」


「してないわよ~、私はただ、ハルに現実を見てほしいだけ!中学のときもさ、けっこーよさげな男子に告白されたのに、フッてたじゃん」


「その人はタイプじゃなかったもん。

紗由理、現実見ろって言うけど...王子様なら、隣のクラスに実際いるよ」


わたしはその人を思い浮かべながら言った。



「まあ...たしかに私も今まで見てきた中でその人が一番王子っぽいわね」


たった今わたしたちの会話に出てきた人物。


それは、隣のクラスの“彼”のこと。


ーーガヤガヤ

なんだか廊下に人がいっぱい流れてきたと思ったら、どうやら隣のクラスが移動教室のようだ。


わたしはすかさず廊下を盗み見た。


その2秒頃ーー現れた“彼”。


その周りだけが、空気がちがうように見える。


きっと彼が放つオーラだ。


「...今日もかっこいい」

思わず言葉が漏れてしまう。

うっとりしてしまっている自分にも自覚してる。


「...まあ、それは認める」


紗由理は口ではそう言うけど、けっしてわたしみたいに目をハートにさせるわけではない。

きっとタイプではないのであろう。



色素の薄い茶色いサラサラな髪の毛が揺れている。

そのピンとした後ろ姿にさえ、見惚れちゃう。


そんな彼の名前は望月洸(もちづきこう)くん。


彼を一言で表すとしたらーー“王子様”って言葉がぴったり。


甘いマスクで有名な俳優顔負けの端正な顔付きの持ち主で、

爽やかな笑顔を向けられた女の子はイチコロなほどかっこいい。


背が高くて、ほどよく付いている筋肉はまた頼もしく感じさせる。


性格も二重丸で、だれにでも優しく平等かつ、常に全体を見て行動ができる人。


彼と同じクラスの女の子がトイレでそんなふうに騒いでいた。

“あんなできた人間はいない!まさに王子様!!”って。


主席でこの高校を入学し、入学式には入学生代表のあいさつをステージでしていた。

ということは、初日にして全校生徒にその完璧さが知れ渡ったということ。


積極性もあり学級委員を務めていて、当然ながら先生からの信頼も厚い。


そんな人、今まで出会ったことがなかった。



「...まるで小説のなかから飛び出してきたみたい」


そんな例えを口にすると、紗由理に“末期だわ、この子”みたいな目で見られる。


「ハルが知ってる小説のなかだとどの人なの?」


「えっとね~“隣の王子様★”の“ユウキくん”かなあ~!」


「...」


ちょっと。

質問してきたんだから、その無言はないでしょ。

その引きぎみな顔はないでしょ。


「あ、こんど貸してあげよっか!?」


「遠慮しとく」


即答かーい!!

紗由理だって、読んだらはまるのに!!


そのときチャイムが鳴り響いて、紗由理は自分の席に戻っていった。