惨めになった私を慰めるかのように

頬を撫でる風が吹いた






花の香りが僅かにして

それがまた涙を誘う




ツーんとした感覚を

何度も何度も感じた時にはもう遅くて








「あ………」






拭いても拭いても、拭いきれない

しょっぱい味がする







少しだけ目を閉じれば

もう3日も前のことなのに





昨日のことのようにフラッシュバックして

頭から離れない









ーーー美咲、俺と別れてくんねーか







「えっ…」








あの日は付き合って3年目の

記念日だったのに、









私、大好きな

大毅に振られたんだ









ほんっと、タイミング悪いよ









喜んでくれるかなって悩んで買った

マグカップももう渡せなくて

必要なくて







私だけが好きだったっていう事実に

胸が締め付けられる






最近、電話出てくれなかったのも

デートしてくれなかったのも









ーー他にほっとけないやついる







このせいなの?






私が何かしたんなら、全部直すよ

それなのに、








ーー美咲、3年間ありがとな








こんなこと言われたら

嫌だなんて、いかないでって






言えないじゃん






最後まで、大毅を嫌いになれないのは

私を突き放してくれなかった

大毅のせいなんだから
























泣き腫らした後は

疲れたみたいで何もすることなく

寝落ちしていた。








ピンポーンと

暗い私に打って変わってなる明るい音に

嫌でも目を覚ました







ドアを開けると

いつも迎えに来てくれる

幼なじみの徹の姿があった







だけど、その隣には大毅の姿はなくて

別れた事実を突きつけられた






「3日も学校休んで心配した」

「ごめん…」

「風邪、だっけ。大丈夫だった?」





私、風邪って言ったんだっけ

あんまり…覚えてないや






「それに、大毅もさ。いつもは行きもしない朝練行ってんだよ」






朝練…か

大毅はいつも行ってなかったよね





サッカー部のキャプテンのくせに






でも、上手くて

カッコよくて




容姿端麗だから

モテちゃうんだよね









「美咲、なんかあった?」

「え?」

「いつもなら、サッカー部は可愛いマネージャーがいるって騒ぐのに今日は静かだし。元気ないしインターホンで起きるなんて初めてだろ?」




あ、そうだった




流石に大学受験控えてるし

そろそろ学校行かないといけないのに





支度してないや






「ごめん、急いで支度してくる。話はその後でするから待ってて」

「じゃ、ここに居るわ」







いつも通りの徹に少し安心したけど

やっぱり何でもお見通しなのは

流石幼なじみって感じだな。







私は支度は女子にしては早い方で、

髪を整えて、制服を着るだけで

あっという間に終わってしまう









「お待たせ」

「やっぱ早いな。まだ7:45、普通に行けば間に合うな」

「そうだね!」







そこから徹は何も喋らなくなった

きっと私が話すのを待っているのだろう







「ねぇ、徹。私さ大毅と別れちゃった!
ていうか、振られた~」

「は?マジで言ってんの?」

「そんな深刻な顔しないでよ、カップルが別れるなんて普通にあることじゃん」






そう言って少しだけ笑ってみせて

自分自身にも暗示をかけると




徹は安心するかな?










「徹、聞いてる?」






気丈にふるまって笑う癖は

昔から変わらないのかもしれない






「きーてるよ!振られたって三日前?それで休んでたの?」


「そうだよ、ごめん風邪だなんて言って」







私は、もう泣かないよ

もう涙は出し切ったから








「でもそれって、」

「うん、記念日。徹に付き合ってもらって買ったマグカップも渡せなかった」





私、ちゃんと笑ってるかな…?




「ほんと、タイミング悪いよね。大毅は昔からさ、私振り回されっぱなしで終わっちゃったよ」

「美咲」

「だから、もう大丈夫だよ?これからは私を慰めるかのようにカフェとかカラオケとか行こうよ。それで徹が奢るの!」






やばい、泣きそう

三日も泣いたのにまだ泣くの?




どんだけ重いんだよ私…





「なあ、美咲。お前も昔から変わってない。そのへんな笑い方、やめろよ俺の前くらい」

「え?」

「俺は、泣いてもいいと思う。ていうか我慢されてる方が嫌だな」

「ごめん…」





それと、ありがとう。