「何か心当たりがあるようだな」

「…いや」


反応を観察するように言われ思わず否定した。

情報不足という分の悪さを今は表に出してはいけない。


「俺は契約を解除する気はない」


椅子から立ち上がりそう宣言した。

解除する気がないというよりはできないと言った方が正しいが、今は伏せておくことにした。

その情報も掴まれているとするとこの行為も意味を失うことになるがそれでも構わない。


「妖精王を知っているか」


立ち去ろうと踵を返した時に背中越しに突然問われた。


「…まあいい。いずれわかる」


それを聞き立ち止まるオルドの横を通り越してその男は廊下の角を曲がり見えなくなった。

あの男の目的がなんとなくわかってきた気がした。

1日目のあの発言の数々を思い出してみれば、探られているのは一目瞭然だ。


"フェールズは野心家だと私は…いや、私たちは思っている"

"他の諸国もみな思っていたことだ。フェールズは謎が多すぎる。資源にも自然にも恵まれ豊かな国を創造しているが、それは突然そうなったのだと古文書では書かれている。悪魔と契約したのではないかとさえ書かれている始末だ"


あの発言でオルドは知っているが周囲は知らないことがある、ということが見抜かれてしまった。

ケイディスは感情が表情に出やすく、俺とは違いきっと困惑した顔をしていたんだろう。


フェールズ国王のみ知っていること。

それは、シルバーダイヤの起源。


太古の昔、妖精の涙によってシルバーダイヤが生まれ、フェールズの地に降り注いだときから我らの国は豊かになった。

そのシルバーダイヤの恩恵により今のフェールズがある。

何も知らない者は豊かな土地を勝ち取った者たちがフェールズ王国を建国した、と思っているだろうがそうではない。


…そうか。

そのこともまだ不確定要素がある。


妖精の涙から生じたシルバーダイヤによって豊かになった、とラファから聞いた。

しかし詳しくはまだ聞かされていない。

具体的に言えば、シルバーダイヤを生み出した妖精とは複数を指すのか誰か1人を指すのか。

どういう経緯でフェールズの土地のみに混在するのか。

俺ですら知らないことをアゼルは知っているというのか。


「…いずれわかる」


最後に言われた言葉を復唱したが首を捻った。

一体何がわかるというんだ。