そして次の日の会議の小休憩中。
向こうから接触してきた。
「少しいいか」
アゼルに呼ばれオルドが椅子から立ち上がり会議室から出ようとするとケイディスが追いかけてきた。
「おまえは残れ」
「でも…」
「平気だ」
向こうも護衛がいないところを見ると1対1で会った方が妥当だと思い、ケイディスをこの場に残すことにした。
ポーガスは最初から動かなかった。
「会議の再開時刻までには戻る」
そう言い残し、廊下を歩きながら目の前の男の背中を見つめた。
僅かに疲労のある足取りだと思った。
「ここでいいだろう」
たどり着いたのは街を見下ろせるテラスだった。
しかしそこは今は閉ざされ、椅子だけが建物内に置かれておりその1つにアゼルが座ったためオルドも距離を置いて座った。
「残り5分で片付ける」
アゼルはそう言い、足を組んだ。
紅の瞳がオルドを見据える。
「単刀直入に言おう」
スッとその目が細められた。
「妖精との契約を解除しろ」
オルドはその単語に目を見開いた。
今、なんと言った。
「なぜ…」
そのことを知っている…?
「今はもう昔話となり忘れ去られているが、3000年ほど前、この世界には妖精と人間が混在し、フェールズと和平を結んだことはわかっている」
「だから、なぜ知っているんだと聞いたんだ」
そんなことは知っている。
俺が知りたいのはなぜおまえなんかがそのことを知っているのかということだ、とオルドは苛ついた。
国民ですら、リリアナですら知らないことを。
「我々の元にも妖精がいる…と言ったらどうする?」
まさかと思ったが、目の前の男の赤い目は俺を見据えたまま動かずこちらの様子を窺っているようだった。
「…そいつから聞いたということか」
質問には取り合わずそう答えたがやつの表情は変わらなかった。
「そういうことだ。それにおまえたちよりも私は多くのことを知っている」
「多くのこと、だと」
違和感はあった。
まだ隠し事があるのではないか、という疑問が確信へと変わりつつある。
ラファはあのとき言った。
"我らが王の子"
と。
彼女に向かって確かにそう呼んでいた。