「その体はあんたのじゃないから、長くは持たないんだよ。あんたを救うためには、あんたの名を知る必要があるんだ。……救われたいのか救われたくないのか、はっきりしなよ」

遠回しなことを言うのも、下手な慰めも柄じゃない。

「このまま、あんたの家族を悲しませて、そのまま死にたいってんならそれでも良いよ。選ぶのはあんただから。そして、あんたは未練をたっぷりこの世に残すんだろうね」

はっきりしない奴は、正直いらいらするから嫌いだ。

「そして悪霊となった暁には、僕が強制的にあの世に送ってやるよ。そしたら、あんたは永遠に地獄に縛られ、転生することも出来ないだろうね」

「!!」

ビクッと肩を震わせ、こちらを見た一の姫に、僕は皮肉げに笑って見せる。

「そしたら、あんたはあんたの想い人と、永遠に会うことも叶わなくなる。力で無理矢理徐霊すれば、行き先は極楽浄土ではなく、地獄しか行き場が無くなるからね。例え、罪をおかしていなくても」

結構な脅し文句だけど、事実だからね。

それに、雪花の体が持たなくなる前に終わらせないと。

「どうする?早く決めないと、雪花の体から叩き出すよ?」

「……篠姫(しのひめ)」

「篠姫……ね」

目を閉じ、篠姫の言葉を復唱すると、頭の中に映像が流れ出した。

生まれた時から現在までの記憶が溢れ出す。

篠姫自身が特に強く心に刻んだ記憶は、何より鮮明に写し出され、まるで自分もその場にいるような錯覚を起こす。

だからこそ、知ることができたよ。

あんたが誰を探していたのか。

「……なるほどね。『昌吉(しょうきち)』って男が、あんたの想い人って訳ね」

昌吉はどうやら本名らしい。

その証拠に、昌吉の名を心の中で復唱した途端、映像が流れてきた。

この家の家人で、篠姫の幼馴染とも言える存在。

お互いにお互いを想いあっていたのに、案の定身分の関係で、篠姫は別の男と関係をもった。

貴族の結婚て言うのは、相手の男が気に入った姫を選び、文を送ってやり取りをし、御簾越しに会話を交わして、ある程度顔を知れるようになって、その後男が女の寝室に忍び込む。

そして、三晩通い続けて、ようやく夫婦になることが出来る。

……なるほどね。

この篠姫の父親は篠姫の想いに気付いているから、強引にことを進めたわけだ。

そして、家人を屋敷から追い出した。

篠姫が相手の男と夫婦になるまで後一晩と言うところで、篠姫は倒れた。

愛しい男以外の妻になどなりたくないという想いから。

らうたき人を、いづこへやりし……つまり、愛しい人を何処へやったのかと詠っているのか。