少女は、うさんくさい針師の老人と一緒に暮らしていた。

名前も知らない老人だ。

あるいは、お腹の子供は、この老人の種なのかもしれない。

老人は、帰ってきた少女を見て、しわがれた声でこう言った。

「また、町外れまで行ってきたのかい」

「ええ。たんぽぽが咲いていたわ」

「馬鹿をいうもんじゃない。花など咲くものか」

老人は、曲がった腰をさすりながら、めんどうくさそうに言った。

「でも、あそこには、いつだって咲いているのよ」

こうして、人は、狂っていくのかもしれない、と少女は思った。

が、あわてて、何かに偏執していなければ、生きてはいけないのだと、思い直した。

そう思わなければ、自分も本当に狂ってしまいそうだったからだ。