『産めないよ。きっと。腹の中でどんな生き物が育ってるか、わかりゃしない』

「だって、あのひとの子供だもの」

『ばかだな。計算が合わないじゃないか』

「でも、あのひとの子供だもの」

少女は、死の匂いが充満した街に向かって歩き続けた。

いつしか、頭の中にひびいていた声も聞こえなくなった。

あれはいったい、誰なんだろうと思ったが、深く考えつづけるのも、難しかった。

すっかり変わってしまったこの街では、不思議なことがありすぎて、正常な感覚が麻痺してしまうのだ。

何が正しくて、何が異常なのか、判断する基準すらなくなってしまっている。