少女は、よく笑う奴だな、と思った。

こんな時代に、ここまでさっぱりとした奴に会ったのは、初めてだった。

この街にいる者は、皆、見えない恐怖にさいなまれて暮らしている。

自分も、いつ、獣になってしまうかもしれないと、怖えている。

それは、死よりも恐ろしいことだと言う者もいる。

人としての精神の死は、物理的な死よりも怖いのだ。

少女にも、それはなんとなくわかった。

自分が自分でなくなる恐怖は、なにものにも変え難い、というのもうなずける。

だからこそ、孕んだ子が、ちゃんと産まれるかどうか、気ががりなのだ。

子供が産まれたときには、自分はもはや、それを関知しない畜生になってしまっているかもしれないのだから。