恋人は、はしゃいで喋る少女の体を、静かに引きはがした。

「ちょっと待って」
少女は、うっとりと自分の幸せに酔っていて、恋人の変化に気がつかない。

「君と最後に会ったのは、もう、一年以上、前のことだと思うんだが……」

「え?」

少女は、熱にうかされたような眼で、恋人を見上げた。

恋人の、疑うような視線に驚き、少女はあわててかぶりを振る。

「どうして? あなたまで、この子を堕ろせっていうの?」

「いや。そうじゃなくて……」

「じゃあ、なんなの? あたし、あなたにいけないことした……?」

「そうじゃないんだ……」

「いやよ。いや! あなたの子よっ!」

少女は叫んだ。

錯乱したように、取り乱して、握った拳で恋人の胸をつづけざまに打った。

もう、なにがなんだかわからなかった。

少女の意識は、混沌として、出口の無い闇の迷路に入り込んだようだった。