気がつくと、針師の老人が、傍らで若者に針を打っていた。

「なんじゃい? 気がついたかい?」

振り向きもせず、老人は言った。

「なんで、あたし……?」

少女がいぶかしむと、すぐに老人は答えた。

「この若者がお前をみつけて、運んでくれたんじゃ」

針を打たれている若者のことだ。

見ると、その若者は、背中にたてがみがあった。

もうしばらくすると、立派なサラブレッドになりそうだった。

「あんた、なにもん?」

少女は、ぶしつけにそう訊いた。

あんな人気のない場所をうろうろしているなんて、ろくなヤツじゃない、と思ったからだ。


「忘れたのか? 俺だよ」