「それは、できんよ」

老人は、あいかわらずのかすれた声であっさりと否定した。

「わしは、天国に行くんじゃからな」

生命をあやめたら地獄に落ちるという価値観にもとずいて、この老人は生きているらしい。

全てが崩壊して、人が人として生きる事すらできなくなったというのに、御立派な信仰だ、と少女は嗤った。

「あんたができないなら、あたしがやる」

少女は、獣化している男の胸をめがけて、治療用の針を振り下ろす。

それは、ぷっつりと皮膚を貫通し、肉を分けてずぶずぶと深く突き刺さる筈だった。


「俺の、親友なんだ!」

逞しいサブローの腕が、きゃしゃな少女の体を抱き止めた。

「こんなになって生きていたって、不幸なだけよ!」

少女は、サブローを睨めつけて、叫んだ。