長谷川君の姿が見えなくなって数分。


待ってろと言われてしまった以上、帰るわけにもいかず、ひとり心の中で叫んでいた。


平常心!平常心よ私!


ここで心を乱したら終わりよ!


顔をぶんぶんと振り、何とか頭の中から煩悩を取り除く。


まだ好きなわけでもないんだし、意識しすぎてはダメよ私!


と意気込み、待つこと数分。


下駄箱の隣にある階段から足早に降りてくる足音が聞こえた。


「帰るぞ」


今度は制服姿で現れた長谷川君は、素早く靴を履き替える。


呆気に取られていた私も、急いで靴を履き替え、長谷川君を追いかける。


待ってろってそういう意味だったのね…。


そして校門を出て横に並んで歩き始めた私たちだが、ここで問題がひとつ発生した。


「…」


「…」


…なんで何も喋らないの!?


なぜか一言も喋らない長谷川君に、ひとり困惑している私に対し、長谷川君はいつももように毅然と歩いている。


「えっと、あの、最近部活はどうですか?」


この空気に耐えられず、とりあえず素朴な話題を振ってみることにした。


「…鬼」


「鬼?」


「土日の練習キツ過ぎて今日寝坊したし」


そう聞いて納得した。


だからこの間朝いなかったのね。


「平日も土日もなんて大変なんですね」


「来週大会があるからな。だから今は強
強化週間。死にそう。寝たい」


なんでもそつなくこなしてるイメージのある長谷川君だけど、


スポーツはやっぱり一筋縄じゃ行かないんだろうな。


でも、体育の授業時に見る限りでも私よりはるかに運動能力が高いのは歴然。


私なんて運動音痴もいいとこで、足と手が違う動作を同時にするところからつまずいている。


私からしたら、切実に運動神経の端くれでもいいから分けて欲しいくらいだ。