部屋の中では真ん中の卓袱台に
俺と2人目の(俺)、
壁の端とベッドの間に3人目の(オレ)
の位置に佇んでいる。

「さ、気を取り直して。
もう、全員(俺)なんだ!気楽に行こう!」

(俺)がフォローに入るが、
中々上手くいかない。
自分が他に2人も居るというのは
意外と緊張するものだ。

「あと、全員(俺)呼びだと
分かりづらいから名前つけようぜ。
(俺)はマサでいいや、
みんなからそう呼ばれてるから。
お前は何にする?」

「じゃあ、俺はそのまま昌樹で。」
実に安パイな場所をとった。
周りからあだ名で呼ばれることなんて
殆ど無い。
逆にここであだ名に決まったら
俺は気付かないかも知れない…。
2人にこの事は言わないでおこう。

「お前は?」
「なんでもいい。」
3人目の(オレ)は素っ気なくそう言った。
彼から何か冷たいものを感じながらも、
ならお前は林な!という締めで
一通り話は収まった。

マサのお告げによると、
時空の歪みにより
EXCEL TRIPが生じたみたいだ。
しばらくの間は彼らと一緒に
過ごさないといけないらしい。

時間は刻々と過ぎる中で、
この部屋は3つの中間地点に
存在している。

例えば俺がドアを開けたら俺の世界、
マサがドアを開けたらマサの世界、
林がドアを開けたら林の世界になっている。

実に奇妙だ。

そこで最も注意する事は、
3人の同一人物が
同じ世界に留まっていることを
他人に知られてはいけないこと。
時空が壊滅し、世界、宇宙が崩壊するとか。

俺はゲームで得た
なんの取り柄もない知識が
今ここで発揮されるとは
予想だにもしなかった。
現実世界で理解が出来るっていうのも
可笑しい話だが…。

これから、どうして過ごしていくか。
俺を含め見るからに
3人とも生活観が異なる。

マサは白の長袖シャツを7分丈に折り、
赤いネクタイを緩く締め、
灰色のパンツといった制服を
ダラけて身にまとっている。

「お前、風呂に入ったんだから
部屋着着ろよ。2日連続で
同じシャツ着て行くつもりか?
汚いぞ。」
「ちげーし、これは新しいヤツ
だから問題ない。汚くねーよ!」

考え方も少々異なる様だ。

そばにはスポーツバッグがおいてあり、
ランニングシューズの様な靴が見えた。
体育系の部活に入っているのか。

一方林は、黒の皮ジャン、銀の鎖、
十字架のネックレス、黒のペディキュア、
更には紫の頭髪にピアス…。
これもまた個性の強い人物だ。

壁にはギターが置いてある。
ビジュアル系でも目指しているのか。

因みに俺は今は部屋着で、
先ほどは学ランだった。
この中では、1番地味で
こじんまりとした印象だ。
そのはずなのに、不思議なことに
それはそれで個性を主張している
ようにも感じた。

グルルルル…
俺のお腹が鳴った。
それもそうか、
マサが俺の夕食分を食べたからな。

午後11時、どうしようか悩んだ。
普段は夜食をする習慣がない。
今部屋を出て行って
母さんにでも会ったりしたら
変に思われるに違いない。

「さっさと寝て朝まで我慢しよう。」
寝床に着こうとした時、

「(俺)眠いから、2人のどっちか
電気を消しておいて。
んじゃ、おやすみー。」
マサがあくびをしながら
即座にベッドに潜り込んだ。

「おい、ちょっと待て、
何ひとりで勝手に寝ようとしている。
俺たちも眠いんだ、話し合うから
今すぐ起きろ。」
林が反論する。

「そうだそうだ。」
林に便乗する。

「明日早いんだから寝かせてー。」
融通が効かない。

林が聞いてきた。
…俺らというか(オレ)ってこんなに
ワガママだったりするのか?

さあ、信じたくもないけど、
こんな一面もあるのかもしれない。

抵抗するマサを力ずくで引っ張り出した。
頭がカーペットに引き摺られ、
足が上に投げやり状態になった。
なんて情けない姿だ。

寝床争いの末、
マサの朝練を優先し、
今日はマサがベッドで寝ることになった。
尚、それ以降は順番交代となった。