「少し落ち着いたか?」
「…まあ。」

風呂から上がった俺は、
ペットボトルの水を飲みながら、
卓袱台の側に座った。

「よし、じゃあ改めまして。
(俺)は林昌樹。そしてお前も林昌樹。
ここには2人の林昌樹が居る。
もちろん住んでいた場所は違う。
いや、世界と言った方が良いか。
(俺)も詳しくは知らないけど、
お前に呼ばれてこの部屋に来た。
この事はくれぐれも他人に知られては
いけないらしい。」

素っ気なく自己紹介をし始めた。
同じ状況に置かれた上で、
こいつはよく順応していると思う。

俺なんか今でも状況を飲み込むのに
精一杯なのに。

「(俺)もお前と同じで最初は焦った。
部屋に帰ったと思ったら
全く違う部屋だったから。」

照れ臭そうに笑った。俺は励まされたのか。

「あのさ、さっき俺が呼んだから
ここに来たみたいなことを言っていたけど
別に誰も呼んでない。間違いじゃねえの?」

「それは嘘だ!確かに(俺)は此処に
呼ばれて来たんだ。そうお告げがきた。」

「え、誰から?」
…そいつは指を真上に指した。…天井?

ガチャリ
すると、さっき自分が閉じた筈の
ドアが開いた。

「あ。」
「…。」

そこには3人目の俺がいた。
かなり驚いているようだ。
まるで数時間前の自分を観ているようだ。
咄嗟に声をかけようとしたが、
脇目も振らずドアを閉められた。

追いかけよう。
言葉には出なかったが、シンクロしたように
同じタイミングで立ち上がった。
急いで階段を降りると荷支度を整える
3人目の俺が居た。

「マジでありえねー。」
そいつはイライラと気が立っていた。

「捕まえたー!」
夕飯を食べた(俺)が抱擁しようとした瞬間
勢いよく手を払った。

「うっせーなお前ら!
気安く話しかけんな!」

どうしたとニヤニヤ笑いながら、
(俺)は調子様に話しかける。
きっと反応を面白がっているのだろう。

「まさか隠し子がいるとは思わなかった。
…笑える。本当にあいつはクソ親父だな。
(オレ)は始めから
見捨てられていたのか。クソが。」

「ちょっと待って、誤解してる!
俺達は同じだから!」
「ああそうだな、同じ子供だ。
だから血縁者同士仲良くしようってか?
胸糞悪い。」
「そうじゃなくて、俺ら3人林昌樹で、
同姓同名同一人物で、俺と同じ人物が、
この世界に3人居合わせてしまったんだ。」

「は?」
「そうだよー、それぞれの世界に居た3人の
(俺)がここに集まっちゃったってこと。
まさに、一心同体!」
「…。」

何バカなことを言い出しているのだとでも
いいそうな顔をしていたが、
所詮は俺。
俺の扱い方は一番俺が知っている。

「そう言うことだから、
初めは信じられないかもしれない。
正直俺も急に2人が自分であることに
疑心暗鬼なところもあるけど、
ここはひとまず上で話そう、な。」

俺は(オレ)の肩に手を置いた。
心を落ち着かせるように。
そいつは未だ半信半疑の様子ではあったが、
俺の目を視て承諾してくれたようだ。