その時、俺はふと思った。
ーもう一人の俺が居ればな。とー
5月23日、空の天気はいつも通りの晴れ。
昨日の天気予報が言っていた
降水確率30%は外れていたのだろうと
思うほどに快晴。
太陽の光が教室の窓に差し掛かって
周りがモワモワと暑さを感じるほどだった。
「先生、早くエアコンをつけてください。」
クラスメイトが下敷きで仰ぎながら言う。
「まだ設定温度に達していないので…。」
気弱な教科担任が生徒の顔色を
伺いながら言う。
「たく、つかえねーな。」
ブーイングの嵐に揉まれながらも
授業を続けますと言って、
先生は黒板に背を向けた。
高校2年の初夏、
勉強に対して誰もやる気を起こさない。
入学当時の面持ちは何処へいったのか、
まるで今は本当に授業なのかと
疑問思うくらい、教室が騒がしい。
俺は大丈夫なのかと思いながらも、
スマホを片手にゲームをしている。
アトラクションのオンラインゲームで、
ちょうど今、Level55の怪物を
倒しているところである。
スマホを保つ位置には研究を重ね、
教卓から見えない角度を考慮してある。
音声はサイレントモードにしてあるため、
よっぽどの事がない限り、
スマホから音が鳴ることは無い。
授業中にいけないとわかっていても、
罪悪感といい、背徳感といい、
なんといっても
このスリルがたまらない。
そうこうしているうちに、今日もバレずに
いつの間にか授業は終わっていた。
最後のHRで進路希望調査が配られた。
1年半後の受験に備えて目星をつけて
おいて欲しい、とのことだった。
俺の進路は決まっていた。
いや、俺自身が何となく決めていた。
将来の夢とか思い浮かんだことはあったが、
次第に現実を見、そんなことは
なくなっていった。
今では、ただ平穏に過ごす為に
妥当な大学へ行くのが良いと思った。
その方が余計な事を
考えなくて済むから正直楽だ。
未来のことは、未来のおれが
その時決める。
だから今の俺は何もしないでいい、
時間に流れるように過ごせばいい。
第3希望までなんとなく書くと、
後ろから前へ順に回収された。
放課後の帰り道、いつもの河川沿いを
歩いていると珍しく、ふたりの子供が
キャッチボールをして遊んでいた。
2人の様子を夕日がそっと見守るように、
川の水音がひと時を涼やかに靡いている。
俺にとって、その何気ない光景が、
とても慎ましく輝いて見えた。
その時、俺はふと思った。
もう一人の俺が居ればな。
楽しそうなふたりを背に
夜の公道へと
独り歩いていった。
ーもう一人の俺が居ればな。とー
5月23日、空の天気はいつも通りの晴れ。
昨日の天気予報が言っていた
降水確率30%は外れていたのだろうと
思うほどに快晴。
太陽の光が教室の窓に差し掛かって
周りがモワモワと暑さを感じるほどだった。
「先生、早くエアコンをつけてください。」
クラスメイトが下敷きで仰ぎながら言う。
「まだ設定温度に達していないので…。」
気弱な教科担任が生徒の顔色を
伺いながら言う。
「たく、つかえねーな。」
ブーイングの嵐に揉まれながらも
授業を続けますと言って、
先生は黒板に背を向けた。
高校2年の初夏、
勉強に対して誰もやる気を起こさない。
入学当時の面持ちは何処へいったのか、
まるで今は本当に授業なのかと
疑問思うくらい、教室が騒がしい。
俺は大丈夫なのかと思いながらも、
スマホを片手にゲームをしている。
アトラクションのオンラインゲームで、
ちょうど今、Level55の怪物を
倒しているところである。
スマホを保つ位置には研究を重ね、
教卓から見えない角度を考慮してある。
音声はサイレントモードにしてあるため、
よっぽどの事がない限り、
スマホから音が鳴ることは無い。
授業中にいけないとわかっていても、
罪悪感といい、背徳感といい、
なんといっても
このスリルがたまらない。
そうこうしているうちに、今日もバレずに
いつの間にか授業は終わっていた。
最後のHRで進路希望調査が配られた。
1年半後の受験に備えて目星をつけて
おいて欲しい、とのことだった。
俺の進路は決まっていた。
いや、俺自身が何となく決めていた。
将来の夢とか思い浮かんだことはあったが、
次第に現実を見、そんなことは
なくなっていった。
今では、ただ平穏に過ごす為に
妥当な大学へ行くのが良いと思った。
その方が余計な事を
考えなくて済むから正直楽だ。
未来のことは、未来のおれが
その時決める。
だから今の俺は何もしないでいい、
時間に流れるように過ごせばいい。
第3希望までなんとなく書くと、
後ろから前へ順に回収された。
放課後の帰り道、いつもの河川沿いを
歩いていると珍しく、ふたりの子供が
キャッチボールをして遊んでいた。
2人の様子を夕日がそっと見守るように、
川の水音がひと時を涼やかに靡いている。
俺にとって、その何気ない光景が、
とても慎ましく輝いて見えた。
その時、俺はふと思った。
もう一人の俺が居ればな。
楽しそうなふたりを背に
夜の公道へと
独り歩いていった。