夕方
谷口先生が
再び
診察に来た

一通り
診察を終えて
谷口先生は
アタシを見て

咲和さん
この子
少し借りるわね

と言うと

おかーちゃんが
体を起こそうとした



横になっていなさい
また
出血するわよ

楓ちゃん
行きましょう



おかーちゃんに
有無を言わさず

谷口先生は
アタシを
院長室に
連れて来た



お座りなさい
なんか飲みたい物ある?

何がいいかしら
そうね…

ミルクティー
どう?




好きです
ミルクティー…



谷口先生が
煎れてくれた
ミルクティーは

一口飲むと
とろりと濃くて
とても
おいしかった



あなた
今まで
どう育って来た?



母の田舎で
今も住んでいます

夏休みで
母の所へ来ました

母が急に
一緒に住みたいと
言い出して



ふぅーん…

あなたが産まれた時
お母さんに
ずいぶん
言い聞かせたのよ

楓ちゃんを大事に
するように
って

…あの子
本当に不器用ねぇ…



不器用?



そうよ
私との約束
律儀に守ろうとして…

あなたの
お母さん
母親になろうと

必死なのね



…必死な人が
今回みたいなこと
するなんて
アタシ
思えません…!

しかも
アタシに
父親すら
明かさない

母は
なにもかも
だらしなくて

アタシなんか
母にとって
何の意味も無いっ…!



おかーちゃんに
伝わらない思いが
一気に溢れ出た



…だらしなくて
わがままで
強情で

あなたのお母さん
そうね
確かに

先生も
あなたのお父さんは
知らないのよ

どんなに聞いても
決して言わなかった

あの時…
妊娠した
せいかしらね

それまで
勤めていた会社を
辞めて

それでも
あなたを
産みたがったのよ

先生ね
実は
堕胎を勧めたの

でも
あなたの
お母さん

相当な決意だったわ