北風が
激しく吹く夕方



咲和は
16年ぶり

かつて
何度も来た

成沢の家の前に
立った



以前のように
ジーンズ
サンダルで

スタスタと
入って行ける
空気じゃない




呼ばれて来たのに
変……



インターホンを
押すと
番犬…
いや
敦のお母さんが
私を
笑顔で招き入れた



オカシイ…

番犬が
私になつくなんて
ありえないし…

ムズムズとおかしくて
滑稽だ


気を利かせて
敦のお母さんは
私と敦を残して

さっさと
買い物に
出掛けてしまった

昔は敦にピッタリ
くっついて

絶対に離れようと
しなかった番犬は
えらい変わりようだ



座ったら?



…はい



ぽかんと
立ち尽くしたままの
私に
敦は
ソファーへ座るよう
促した



…はい




え?



僕の知っていた
あなたは

はい

なんて
言う人じゃなかった




なら…
ここにいる私は

あなたの知っている
昔の
紺野咲和じゃ
ないんでしょうね



私の受け応えに
苦笑いした
敦の笑顔は

未練を引きずり続ける
私の心に
ひどく堪える



…で
目的は何?



目的?



やり手の
女社長が
僕の所に
マスコミのリスクまで
背負っていらっしゃる
意味は何ですか?

金なら
貴女の方が
お持ちでしょう?



…その通りよ
金なら
エリオの主権を
握り損なって
落ちぶれた
成沢さんより
ずっと沢山あるわよ



切り返しが
お上手になられて
さすが
評判の社長さんだ

なら
ご用件をどうぞ