桃太郎達が地獄を目指し黄泉の船を漕いでいる頃鬼姫達は、今年の鬼祭りの準備を進めていた。
「鬼姫様、私達もお手伝いします」
声をかけてきたのは、村の娘達だ。
「ええ、助かるわ。ちょうど人出が欲しいと思っていた所なのよ。貴女達は、屋台で出すお菓子の材料を集めてきてくれるかしら?」
「もちろんです♡鬼姫様のお役にたてるなら私達なんでもやりますよ」
そう答えて、走って行く娘達を、鬼姫は、笑顔で送り出した。
さて、私も用意しなくては、と洞窟に戻ろうとする鬼姫に若い鬼が声をかけてきた。
「鬼姫様…お願いがございます…」
若い鬼は、とても追い詰められたような表情をしており、一目で何かあったとわかるくらいやつれていたのだ。
「お主、何があったのじゃ?」
「実は、風邪をひいてしまい…それで、俺のために薬になる薬草を探しに子どもが森に入ったみたいで…そのまま帰って来ないんです。鬼姫様お願いします。俺と一緒に子どもを探してください。」
鬼姫は、話を聞くなりすぐに返事した。
しかし、これが罠だという事をこの時の鬼姫は、まだ気づいてなかったのだ。
「ありがとうございます。鬼姫様…」
そう言うと案内するように鬼姫の前を、歩く若い鬼…その顔は、不気味な笑みに満ちているのだった…
森の中を進みながら鬼姫は、尋ねた。
「お主の子どものツノは、何本じゃ?」
「えっ…二本ですよ」
「ふーん、なるほどのお、それでお主の子どもの歳は、いくつじゃ?」
「今年で8歳です」
それを聞いて鬼姫は、違和感を感じた。
変じゃな…鬼の子は、10歳になるまで角が生えないはずじゃが…
こやつ何か隠しておるな…
そう思い鬼姫は、かまをかけてみる。
「そう言えばお主、先ほどから顔色が悪いの…大丈夫か?まるで、誰かに脅されてるような顔色だぞ?」
若い鬼は、一瞬立ち止まり「何を言ってるんですか、私は、子供を探しに来ただけですよ?変な事を言わないでくださいよ」
と鬼姫を背にして返してくる若い鬼。
「お主…なぜ目を合わさぬ?いかがわしい事でもあるのか?」
疑うような口調で話しかける鬼姫に警戒したのか、若い鬼は、振り返り「すみません、子供の事を考えていたもので…」
と答えるだけだった。
らちがあかないと踏んだ鬼姫は、腰から刀を抜き、若い鬼の喉元に剣先を向け問いかけた。
「お主…何を隠しておる?子供を探していると嘘までついて何が目的だ?」
「何を根拠に嘘だと言うのですか?」
それでもすまして答える若い鬼。
まるでこうなる事を予想していたようなのだ…
不思議に思いながらもさらに鬼姫は、問い詰めた。
「ほー、子供のツノは、10歳にならないと生えない。そんな事も知らないやつが親な訳ないだろ?」
「…ふっ、あははは」
一瞬の沈黙の後若い鬼は、急に笑い出したのだ。
あまりの不気味さに思わず、刀を引きそうになるのを必死に堪える鬼姫。
しかし、一瞬の隙をついて若い鬼は、間合いを詰めてきた。
やばいと思い、サッと体を逸らす鬼姫、それでもかわしきれず、鬼姫の頬には、かすり傷が出来た。
こやつ…何者だ…
鬼姫は、鬼の戦闘術を使い、ツノの力を最大限に引き出し、若い鬼に斬りかかる。
しかし若い鬼は、鬼姫の攻撃を、紙一重でかわしツノの力で強化した爪で斬りかえしてきたのだ。
こやつ…私の攻撃を読んでいる?
チャリーン
鈴の音が聞こえたと思うすぐに若い鬼の攻撃が飛んできた。
ん?なんじゃ?今の鈴の音は?
「鬼姫様ともあろう方がこの程度の実力なんですか?」
こやつ、わたしが鈴の音に気づいた瞬間に挑発してきおったぞ…もしや…
「ふん、私の実力は、こんなもんじゃないぞ。お主もそんな力に頼るでない、卑怯者めが」
鬼姫の挑発に気を悪くしたのか若い鬼は、さらに攻撃の速度を上げてきたのだ。
すると、先程まで一つだった鈴の音に、激しく鳴り響くもう1つの鈴の音が混ざり不協和音を生み出した。
その不協和音に、無理やり合わせるように若い鬼の攻撃に激しさが増し、同時に隙が生まれたのだ。
やはりな…
それは、感情によって鳴り響く鈴。
それ故に、感情の暴走は、不協和音を生み、隙を生じさせるのだ。
もはや勝負がついたも同然だった、しかしとどめを刺すのが武士の情け。
鬼姫は、若い鬼の隙を突き、峰打ちをくらわせた。
「ぐはっ…」
血を吐きその場に倒れる若い鬼。
おそらく操られていたであろう。その鬼の首には、一つの鈴がぶら下がっている。