パキッ…パキッ…

鬼姫は、桃太郎の事を考えながら森の中を歩いていた。

(あの男…一体何を考えているのじゃ…父上の墓を作りたいなど…)

「誰じゃ?そこにいるのは、分かっている出てこい」

「キキーッ」

鬼姫の声に驚いた猿が飛び出してきた。

「お前…あの時の、生きていたのか」

その猿は、桃太郎が初めて鬼ヶ島に来た時、連れてきた猿だった。

桃太郎に巻いて貰った桃の飾りの付いた縄は、ボロボロになり、鬼の王につぶされた右目は、痛々しいが元気そうにしていた。

「キキーっ」

猿は、野生の勘で何かを悟ったのか、鬼姫に木の実や果実を差し出してきた。

「お前…くれるのか?」

鬼姫が聞くと猿は、頷いて見せた。

「そうか…悪いの、桃太郎に食わせてやる木食べ物が見つかってよかった」


鬼姫が洞窟に戻ると桃太郎の姿が無かった。

(あの者…どこに行ったんさじゃ?)

しばらく洞窟で待っていると、桃太郎が猪を持って帰って来た。

「お主…その猪どうしたんじゃ?」

目を丸くして聞く鬼姫に桃太郎は、何事も無かったのように答えた。

「あー、昨日罠を仕掛けておいたんだよ」

(確かこの男が、来た時色々罠を持ってきていたな…)

「ん?ちょっと待て。私は、ずっとお主と一緒にいた。なのにいつ罠なんて…」

「あー。それは、君が寝てから森に…」

「バカものー」
そこまで言うと鬼姫は、急に怒り出した。


驚く桃太郎をしりめに、鬼姫は、続けた。

「夜の森は、危険なんじゃぞ。もしお主になにかあったらどうするのじゃ…私は、もう大切な人に居なくなられるのは、いやじゃ…」

そこまで言って鬼姫は、桃太郎が自分にとってどういう存在なのだろうと疑問に思った。

「悪かったよ。ごめん…」

そう言って桃太郎は、鬼姫の頭に手を置いた。

「なっ…お主私を子供扱いするのか?」

真っ赤になって怒る鬼姫に、桃太郎は、
笑顔で答えた。

「君は、子供なんかじゃない。立派な女性だよ。」

「なっ…何を訳の分からぬ事を…」

そう言われ、桃太郎は、すこし困った表情を見せそして答えた。

「俺にとっても、君は、特別な存在って事かな?」

この時の桃太郎の言葉に嘘は、無かった。おばあさん以外の女の人と関わった事の無かった桃太郎にとって若い鬼姫は、特別な存在と言う意味だったのだ。

(えっ…それって…)

恥ずかしさで真っ赤になる鬼姫…

「どっ…どうした?熱でもあるのか?」

「違う…」

(なんなのよ。この気持ち…あいつが来てからなんだか胸が熱くて苦しいような…)

恋などした事が無かった鬼姫にとってそれが恋だと、気づかなかった。

「少し…泳いで来る…悪いけど先に食べといて」

そう言って鬼姫は、出ていってしまった。

(なんなの?この気持ち…どんなに泳いでもスッキリしない…あいつのこと考えるとドキドキするし、一体私どうなっちゃったのよ)








(鬼姫のやつどうしたんだ?突然赤くなったりして…ってあれ?俺なんでさっきから鬼姫の事ばっかり考えてるんだ?鬼の王の墓を作りに来たはずなのに…考えても仕方ない。疲れて帰ってくる鬼姫のために美味しい料理を作って驚かせてやろう)

遠くの川まで洗濯に行くおばあさんの代わりにいつも料理を作っていた桃太郎にとって料理は、趣味の一つであり。また多才な桃太郎の特技のひとつでもあった。

桃太郎は、猪をさばきながら悔やんでいた。鬼姫は、いつも1人で食べていたんだな…俺が鬼の王を殺してしまったせいで…桃太郎の心は、罪悪感で押しつぶされそうになっていた。

しかし、何故だろう。同時に桃太郎の心の中には、鬼姫の笑顔が浮かんで来た
。そして、この笑顔を守りたいと思っていた。

しばらくすると鬼姫が帰ってきた。

「あ〜疲れた〜」

「おかえり、ご飯出来てるよ」

「えっ?ほんと?桃太郎ありがとね」

笑顔で、感謝の言葉をかけてくる鬼姫。

この笑顔だけは、絶対に壊したくないと改めて桃太郎は、思った。

「桃太郎どうしたの?ぼっーとして」

「えっ?ちょっとね、お墓のデザイン考えてて…」

「なるほどね、私も一緒に考えてあげるよ」

そう言って鬼姫は、桃太郎の前に座った。

もぐもぐ〜

「この焼き猪美味しい〜♪♪桃太郎あんた意外と女子力高いんだねww」

「家では、俺が料理してたからな。料理は、任せろ。

「えっ?ほんとにいいの?」

申しわけなさそうに聞いてくる鬼姫。
しかし、鬼姫に褒められていい気分になっていた桃太郎は、言葉の意味を考える事すらしなかった。しかし、この時は、まだこの島で料理する事の大変さを理解していなかったのだ。