電話を切って深呼吸。これはもしかして夢なのではないか。
そんなことを思いながら大きく息を吐いて、茜色の空を背中に自宅に向かった。

自宅についてすぐお母さんに飲みに出かけることを伝える。

お母さんの手が私の頬に触れた。頬を撫でる手にさっき泣いたのを思い出した。

「あの、これは・・・」

言葉が出てこない。
それでもお母さんは涙の後をなぞりながら「たまにはいいんじゃない?」と何も聞かずに笑った。

「うん・・・。ありがとう」

その言葉にお母さんは私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「早く支度しないと飲みに行く時間になるんじゃない?」

そう悪戯に笑うお母さんは、いつものお母さんだった。

顔を洗ってメークして。服に鞄に靴にと引っ張り出してはこれでもないあれでもないと悩んでいた。まるでデートにでも行くみたいに。

違う違う!これはデートじゃなくて!デートじゃなくて・・・ただ、飲みに行くだけ。
なのに、なんでこんなに張り切ってるんだろう。
私は夏樹さんの笑顔が好きで、優しい声が好きで。でも夏樹さんは・・・。

そんなことを考えているとスマホが着信を知らせる。画面には夏樹さんの文字。
ドキドキしながら電話に出る。

「お待たせ。いこっか」

変わらずの優しい声に今までとは違う、きゅうううっと胸を締め付けられる感じがした。
これは一体何?