心の中はもうやめてと言わんばかりに音を鳴らしていた。
このドキドキはもしかして・・・。

「編み物の楽しさっていうのが、私にももしかしたら、わかるかなと思って・・・」

私の言葉に夏樹さんは一瞬びっくりしたよう顔をしてすぐにまた表情を変える。

「嬉しいな」

照れくさそうに、でも嬉しそうに見えるその表情に今日会えて本当によかったと心の底から思った。

「でも何を選んでいいのかわからなくて」

夏樹さんは「そうだね」と毛糸の棚を眺めてそこから2、3種類の毛糸を見繕って私に見せた。

「初めてだったらあまり細すぎると先が長くて途中で嫌になるかもしれないから、このくらいの太さがいいかもね。この辺なら糸割れもしにくいし値段もそんなに高くない。始めやすいと思うよ」

「糸割れ?」

聞きなれない言葉に首を傾げる。

「毛糸って何本かの糸を捻ってあるんだけど、その捻りが甘いと編んでる途中で糸が割れて引っかかっちゃうんだ。もちろんそれが売りの糸だってあるし用途次第なんだけど、これから始めようって人に俺はおすすめできないかな」

そう説明してくれる夏樹さんはどこか楽しそうで、いつもよりしゃべっている気がする。本当に好きなんだろうな・・・。

その後、毛糸を決めて購入した。本や編み針は使っていないものをあげるよと夏樹さんが言ってくれて、その言葉に甘えることに。
夏樹さんも買い物が終わったころみちるさんが戻ってきた。