「ふん
豪族の媛なら、ここに何人もいる。
だが、みんな鼻持ちならない女ばかりだ。
そんな女の寝所へなど、行きたくもない。」

大王はつまらなそうに鼻を鳴らした。

「………でも、お媛様ですよね?
きっと私より美しくて大王に相応しいはず
です。」

「ふふっ
アヤ、お前は着ている物は粗末だが、お前
自身は誰よりも美しいぞ。
どの媛よりもだ。」

そう言う大王は、そっと私の頬に触れる。

その瞬間、心臓が跳ねた。

「でもっ、
私には許婚がおります。
彼の元へ嫁ぐと約束しました。
お願いです。
私を帰してください。」

「くくっ
親が決めた許婚か?
そんな物、もうとっくに反故(ほご)に
されてるぞ。」

大王は楽しそうに笑う。

「そんな………
いえ、でも、ハヤは、彼は、私と必ず夫婦
(めおと)になると約束してくれました。」

ハヤが嘘を吐くはずがない。

「ふっ
男はそう思ってるかもしれん。
だが、お前は、その男を帰る口実に使って
いるだけだ。」

「そんな事はありません!」

私にとって、ハヤは大切な人。
私だって、ハヤと夫婦になるって決めてるもの。