「………」
黒藤さん一人ということは、ママの存在はどう認識されているんだろう……。
「……ママ――お母さんが、影小路姓に戻ることはないの?」
「紅亜様が復帰されるということか?」
つと、黒藤さんはママに視線を遣った。
「……恐らくは、ないな。出来ていたら、母上が当主であった間にやっている」
「それはどうかしら」
黒藤さんの言葉に、ママは首を傾げた。
「どういう意味です?」
黒藤さんが問い返すと、ママは難しい顔で答えた。
「黒ちゃんがどの程度知ってるかはわからないけど、紅緒は誰より影小路が嫌いな子だったわ。何度も家出して、私のところへ来ていた。けれど、正統後継者という地位からは逃れられないで、当主に就いた。……無涯を連れて行ったのは、影小路への意趣返しでもあったと思うわ」