『ねぇ、外見た?』
土曜日の朝一番。
早起きの私が朝ごはんを食べ終えると、スマホの向こう側から彼の明るい声が届いてきた。
「見てないけど?珍しいね、こんな早くに起きるなんて」
『こんな天気の日にぐーすか寝てるわけないだろ』
「こんな天気?」
『外、見てみろって』
「外...?」
リビングを暖かく包むストーブの前を通って、私は窓のカーテンを開いてみる。
「わぁ...っ」
視界に広がった外の景色は、真っ白な雪を積もらせてすっかり冬を表していた。
『な、すごいだろ?』
「なんであんたがドヤ顔なのよ」
電話越しでも容易に想像できる彼の顔にツッコミをいれれば、彼はアハハと笑い声を上げる。
『月曜も積もってたら、一緒に雪合戦しよーぜ』
「子供か。まさか、それ言うためだけに電話してきたの?」
『ん?まぁ、そうだな』
「やっぱり子供」
でも、そんなくだらないことに、他の誰かじゃなくて私を誘ってくれた。
呆れ声を出してみるけれど、嬉しい気持ちは知らずに私の口角を上げていたようで。
『なんかお前、喜んでる?』
「えっ?」
そう言われるまで、私は自分がどんな顔をしているのか気づくことができなかった。
「あ、ほんとだ...」
指先で触れた窓ガラスには、顔をほころばせる自分の顔が雪景色とともに映る。
『やっぱお前も雪合戦やりたかったんだろ?』
「は?」
『いや、気持ちはわかる。雪ってテンション上がるもんな』
的外れもいいところだ。
相変わらず鈍感な彼は、私の予想の斜め上をいってくれる。
「...ふふっ」
私は窓ガラスに触れていた指先をそのまま滑らせていく。
「ねぇ、」
『ん?』
水滴が溜まったところをなぞって、伝えていない気持ちを描く。
「雪合戦だけじゃなくて、雪だるまも作ろうよ」
簡単な2文字の言葉とそれを囲ったハートは、今日も私の口からこぼれ出ることはない。
『おう、いいな!』
「決まり。楽しみにしてる」
窓の外で降り積もる白は、まるでどんどん大きくなっていく私の彼への気持ちのようだ。
「勇気が欲しいな.....」
積もり積もったこの気持ちを、伝える勇気が欲しい。
鈍感な彼にも伝わる、言葉が欲しい。
『何が欲しいって?』
小さく呟いた声は彼に届いていたようで。
「な、なんでもないっ/////」
慌てた私は、勢いで電話を切ってしまったのだった。