「この教室に入った瞬間、チャイムが鳴って、教室が真っ白な光に覆われるんです。光がおさまると、そこは十二年前の教室になっていて、3年1組のみんながいるんです」

「チャイム、ねぇ……」


先生は首をひねった。


「前にも話したけど、旧校舎のチャイムはとっくの昔に切ってあるの。もう十年以上、鳴っていないわ。実際に今日も鳴ってなかったし」

「でもあれが空耳だとは思えません。それくらいはっきり聞こえるんです」

「そう……」


先生は私の背中に置いていた手を静かに下ろした。


「凛々子さんの様子がおかしくなったのは、その『チャイムが聞こえる』って言った直後なのよね」

「直後?」

「そうよ。『チャイムが聞こえる』って言ったあと、いきなり窓の方に走っていって、『今日のこと忘れないで! 修学旅行に行かないで!』って大声で叫んだの。それから私の方を振り返って『3年1組のみんなは生きてるんですよね?』って……」


私はズボンのポケットからスマホを取り出した。


時刻は11時26分と表示されていた。


この教室に入ったのは、11時22分だった。


過去の世界に一時間いたはずなのに、現実世界では時間が経っていない。