「なんでよりによってあんなチャラ男と、」

「あ、ほら、お客様だよ。いらっしゃいませ、ご来店ありがとうご……ざいます」

扉を開く際の空気の音で来店には敏感に反応するようになっている。

今もまさにセンサーの如く来店に反応して振り返れば、捉えた姿にうっかり声が上ずってしまった。

だって、噂をすればなんとやら。

重いガラス扉を押し開いて、まっすぐにカウンターに向かってくるのは先程から話題に上がっていたそのお人なのだ。

歩く度にパーマがかった黒髪の下ろしている右前髪が柔らかに揺れる。

鬱陶し気な右側とは異なりクリアな左側は切れ長の目と泣き黒子が印象的。

延長線、左耳に光る3つのリングのピアスも。

こんな不真面目そうであるにも関わらずスーツはいつでもキッチリと着こなしていて、シャツもスーツも皺もなければしっかりとボタンも留められているのだ。

ああ、そうかもう14時程だったか。

この人が決まってくる時間帯の目安。

休憩時間であるのか姿を見せるのは14時前後。

頼む注文もまた、

「ご注文お決まりでしたらお伺いいたします」

「本日の珈琲、ホットで」

日替わりの珈琲をホット。そしてブラック。

他の物は頼んだ事はない。少なくとも自分は見たことが無い。

そして、座る席もまたいつもと同じ。

珈琲を片手に休憩時間であるのにタブレットを覗き込んで仕事をしているのだ。