「はっ?待って?初耳なんですけど?」
「だって、今初めて言ったし」
初耳なのは当然だろうと、今も可愛い顔の造り台無しに大口を開け目を見開いている友人に冷静な一言を落す。
そんな会話をしながらも自分の職務は真っ当して、足りなくなった珈琲豆をミルにかけ始める。
普通であるなら挽きたての珈琲豆の匂いに人によっては感動の一つでもしそうなものであるけれど、常に珈琲の匂いが充満している場所で働いている自分ではその感覚もすでに麻痺してしまったらしい。
自分が働いているのは純喫茶なんて古風な場所ではなく、見渡せばそこらにある全国チェーンな珈琲ショップの一つ。
社員というわけでもなくバイトで身を置き1年程だろうか。
1年も続ければ店の勝手から客層、常連なんかも把握しきってしまうもので。
それはまさに隣で大口を開けている友人も同じく。
だからこそこうして大口開けて驚愕に固まっているのだけども。
「本当にっ?」
豆を挽く音が丁度静まり店内のBGMが自分の耳にクリアになった瞬間だろうか、そのタイミングを待っていたかの様に友人の硬直も解けたらしい。
流石に仕事中という事もあって大声を出すなんて失態は犯さないにしても、自分のエプロンを掴む指先と問いかけに来る表情は脅迫的だと言える筈。