確かに自分の格好を意識して口調もトーンも女の子の対応で過ごしていた自分であったけれど。
そっか、この人にとって珈琲ショップの自分と今の自分は一致していないのか。
そんな結論が下ってしまえば、確かに彼の言うように『どうやって?』という疑問に突き当たるのだ。
でも、別に隠す事でもないんだよな。
打ち明けてしまおうかと唇を動かしかけていた最中であった、自分の声より先に響いたのはクスクスと笑う彼の声で。
差し出された名刺と同時、
「聞きだし上手だね」
「いや、そんなつもりじゃ…」
「どうせお礼してくれるならさ、こっちが指定してもいい?」
「えっ?」
「その、若い体貸してくれない?」
そんな意地悪な言葉の付属と含みたっぷりな妖しい笑み。
言い方が本当に底意地悪くて悪戯で狡いのだと今でも思う。
何てことない。
新商品のサンプルづくりに若い肌が欲しかったに過ぎない誘い文句だったのだ。
そうしてこの関係は始まってしまったのだ。
吐季さんと巴ちゃんとしての関係。
それでもだ。
翌日こそ……少し意識したのだ。
いつものように決まった時間。
当然いつものようにその姿を来店させた吐季さん。
こちらも当たり前の仕事、店員として彼の前に立ち注文を聞いて、何の気なしに視線が絡んだ刹那、
『あれ?』
なんて声が飛ぶのではないのかと。
でも、吐季さん表情が崩れることもなく、僅かな動揺すらその目に揺らさず。
その姿は珈琲片手にいつもの席へと向かってしまったのだ。