白露庵に到着した愛梨は、鼻歌を歌いながら入り口の扉を開いた。

 それから店の制服に着替え、床にモップをかけ、窓を上から下までピカピカに磨き、布巾を絞ると店内で一組だけの机と椅子を丁寧に拭いた。


 ちなみにこの店の店主である白露は退屈そうに、店中で雑誌を読んでいた。

 あやかしでも雑誌とか読むんだなー、と愛梨は少し不思議に思う。

 店主がサボっているのがちょっと理不尽にも思えるが、そもそも白露からここまで熱心に掃除をしろと言われたことはない。


 それに愛梨はこの店の手伝いをしているだけで、厳密にはアルバイトでも従業員でも何でもない。掃除をまったくしなかったところで、きっと白露は怒らないだろう。

 それでも愛梨は元々掃除好きだったし、どうせならこの店に訪れる人に快適にすごしてほしかった。この店に来る客は、一度しかここへ来られないのだからなおのことだ。


「よし、どこもかしこもピカピカ!」


 白露庵のまるで老舗旅館のように赴きのある店構えは、いつ見ても素晴らしい。

 掃除が行き届いた店内に満足していると、それを見計らったように外から扉が開いた。

 愛梨はシャキッと背中を伸ばし、礼儀正しくお辞儀をする。


「いらっしゃいませ!」