和田が帰宅すると、家のリビングにセイウチが転がっていた。


 セイウチ、トド、ジュゴン――そこらへんの詳しい違いは正直分からない。

 どれでもいいが、あざらしだとちょっとかわいらしすぎる気がする。


 とにかくセイウチは大きな身体、特に腹の部分にでっぷりと肉をたくわえ、じゅうたんの上に転がって、怠そうにテレビを見ている。時折近くに置いてあるポテトチップスの袋に手を伸ばし、パリパリとそれを食む。


 服装はよれよれのパジャマだ。

 お互いそろそろ四十才を過ぎるから多少の体型の変化は仕方ない。実際和田だって腹に肉はついているし、スリムとは言い難い体型だ。

 それを棚にあげたとしても、彼女のぐうたら具合はあまりにもだらしない。



 和田が帰って来た気配がしたのか、セイウチは彼を見て、うっとうしそうに眉を寄せた。


「あんた何でそんなところに突っ立ってるの? 晩ご飯、それだから」


 テーブルの上に置かれていたのは、カップラーメンだった。お湯を入れれば三分で出来上がる優れものだ。別にラーメンが嫌いなわけではない。

 しかし頑張って仕事をして帰って来た自分に、この仕打ち。


 和田は目眩がするのを感じた。


 それを見た瞬間、ギリギリで保たれていた何かの糸が切れた気がして、和田は家の外に飛び出した。自分では意識していなかったが、もしかしたら奇声を叫んでいたかもしれない。

 とにかくもうだめだと思ったのだ。