スヴェンの自室に戻る際、ふたりに会話らしい会話はなかった。しかし部屋の扉が閉まったのと同時に、ライラは先ほどからずっと思い巡らせていた考えを口にする。

「スヴェン、エリオットに本当のことを話してはだめかしら?」

「本当のこと?」

 先に部屋の中に歩みを進めていたスヴェンがライラの方を振り返る。鋭い眼差しに、ライラはぎこちなくも頷いた。

「うん。エリオットはフューリエンの事実は知らないからもちろん黙っておくけれど、私たちの結婚には事情があって期間限定のものなんだって」

「話してどうする? 事情も話せないのに、余計な情報は邪推を呼ぶ。お前の存在が下手に知られるところになったらどうするんだ」

 スヴェンの言うことはもっともだ。ライラもわかってはいる。けれど、それ以上に彼女には思うところがあった。

「……エリオットは口が堅いし、余計な詮索をするような人じゃないから」

「随分と、信頼しているんだな」

 間髪を入れずに返ってきた言葉は低く辛辣だ。ライラの喉を凍てつかせ声を封じ込めるほどに。

「ずっと会っていなかったんだろ? 人なんてわからない。お前がフューリエンだと知れば、目の色を変える連中も少なくないのは身をもって知っているだろ」

「でも」

「そんなにあの男に、俺と結婚していると思われるのは不都合か?」

 畳みかけるように尋ねられ、すっかり勢いをなくしたライラはたどたどしく答える。