「よく言う。ずっと怯えた兎みたいだと思ったが、気の強い猫だったとはな」

 その言い分だと、どっちみち猫だという結論を指摘するべきか。たとえとはいえ人間扱いされていないことに意見すべきか。

 あれこれ考えて反論しそうになったライラだが、途中でやめる。孤児院を出てファーガンの屋敷に迎えられてからライラの心はずっと緊張状態だった。

 それはこれからもずっと続くのだと覚悟もしていた。

 慣れない城での暮らしに、さらには初対面の男と互いに愛も情もない義務だけで営む期間限定の結婚生活だ。けれど自分を「フューリエン」と特別扱いされるよりもよっぽどいい。

 冷たくても威圧的でも、それが彼の自然な姿ならかまわない。本音をぶつけてもいいと許してもらえるのは、今のライラにはとても有難かった。

「……うん、ありがとう」

 小さく答えて、ライラはしばし言いよどむ。そして先ほど彼が自分の名を呼んだのを思い出して、決意した。

「おやすみなさい、スヴェン」

 ぎこちなくも夫の名前を呼んでみる。これでおあいこ。きっと自分が名前を呼ばれたときに比べ、彼はなにひとつ心揺れたりはしないのだろうけれど。

 それでもライラの心は少しだけ温かいもので満たされた。返事はなかったが、久しぶりに安心した気持ちで目を閉じる。

 眠れないかもしれないと思っていたのに、ひんやりとしたベッドの中でライラはすぐに夢の世界へと足を踏み入れられた。