「大変です、スヴェンさま! ドレスは着せたのですが、まだ支度もありますのにライラさまが部屋にいらっしゃいません!」

 まさかの事態に、場が水を打ったようにしんとなる。珍しく動揺しきっているマーシャをよそに、ちらりとスヴェンを見て、まず口を開いたのはルディガーだった。

「式前に花嫁逃亡……お前との結婚が嫌になったんだろ」

「ライラもついに目を覚ましたか」

 クラウスも付け足す。スヴェンは難しい顔をして息を吐くと、もたれかかっていた壁から背を浮かした。部屋を出ていこうとするスヴェンにルディガーが問いかける。

「どこに行くんだよ?」

「迎えに行くんだ。見当はついているからな。どこに行っても捕まえる」

 部屋のドアが閉まり、嵐が去った後のような静けさの中でクラウスが誰に言うわけでもなく呟いた。

「……結婚が人を変えるというのは、どうやら本当らしいな」

「いや、あいつを変えたのは結婚じゃなくてライラだろ」

 すかさずツッコんだルディガーにクラウスも笑って同意する。

「そうだな」

 そのノリでルディガーはもう少しクラウスに踏み込んでみた。

「で、お前の愛しい人にはそろそろ会えそうなのか?」

 生まれたときから国王になる運命を背負っていたとはいえ、実は幼馴染みの中でクラウスは一番の秘密主義者だった。