慎重に言葉を選んだセリシアとは対照的に、もうひとりの男ルディガーが楽観的な口調で告げた。さらさらと色素の薄い短めの茶色い髪と同じ、ダークブラウンの瞳が細められる。

「今回の件、私もご一緒してかまわないんでしょうか」

「自分の副官を連れて行ってなにが悪い? それにいざというとき誰が俺の骨を拾うんだよ」

 不安げに尋ねたセシリアにルディガーがあっさりと答える。ちなみに彼女が質問した相手はスヴェンだったのだが。

「また、あなたはすぐにそういうことを……」

 セシリアは呆れた面持ちでため息をついた。自分の直属の上官であるルディガーはいつもこの調子だ。

 どこまで本気でどこまで冗談なのか、長い付き合いになる彼女自身もいまだによく掴めない。

 石畳が剥き出しで、城の内部だというのに特別な装飾もなく無機質な部屋にはひんやりとした空気が淀む。三人の地位を鑑みれば分不相応ともとれるが、密談をするにはぴったりだ。

 この部屋を知る人間は限られている。蝋燭の明かりがふっと揺れた。ただひとつ換気や外部の様子を見るために設置された小さな窓の外では夜の帳が下りてきている。

 スヴェンは視線を外にやり、重々しく口を開く。

「日も落ちた、動くぞ」

「では、捕らわれのお姫様を助けに行くとしますか」

 仰々しく言い放つルディガーにスヴェンが皮肉めいた笑みを向ける。

「……どうだろうな、魔女かもしれない」