マーシャの明るい声も耳を通り過ぎていく。自分が自分ではないようでどうしても居心地の悪さが抜けない。あんなにもこの左目の色が消えるのを待ち望んでいたのに。

「スヴェンさまもきっと驚かれますよ」

 不意にスヴェンの名前を出され、ライラの心臓が跳ね上がる。

「う、うん」

 起きた時点で案の定、スヴェンの姿もなかった。おそらく彼も知ってはいないだろう。

 スヴェンは今晩の迎冬会のために朝早くから城を出ている。彼は片眼異色ではなくなったライラを見てなにを思うのか。なにを言われるのか。

 想像すると、胸の奥が痛みだした。うつむくライラにマーシャが心配そうに声をかけるが、頭に入って来ない。

 代わりに、スヴェンに言われた台詞が思い出される。

『結婚なんて自分からする気もない。それこそ陛下の命令でもなければ』

『お前を守るために結婚したんだ』

 つい数時間前まで、彼に想いを伝えようかと迷っていたのが嘘みたいだ。今はそんな気持ちが微塵も湧いてこない。

 痛みと共に突き付けられた。

 けっして忘れていたわけではない。自分たちの関係には理由があって、終わりがはっきりしていた。そして、そのときが来てしまっただけだ。