「スヴェン、俺はお前が少し羨ましいんだ。どんな形であれ、そうやって自分の感情を素直に相手に出せるのは、出してもらえるのは」

 どことなく物悲しさが漂う口ぶりだった。スヴェンはフォローするというよりも、自分の思うところを正直に告げる。

「……お前に大事にされているのは本人だって自覚してるだろ」

「そうだな、スヴェンに伝わっているくらいだし」

 軽口を叩くルディガーを見遣り、スヴェンは今度こそ踵を返して部屋を出ようとした。

「この借りはまたどこかで返す」

 事を大きくしたのはルディガー本人だが、悪気があってライラと自分との関係に口を挟んだわけではないはわかっている。ルディガー自身の言葉でそれは沁みた。

「いや、その必要はない。俺は返しただけだ。だから、これで帳消しだな」

 ルディガーの切り返しにスヴェンは思わず振り返って彼を二度見した。ルディガーは、いつもの人のいい笑みを浮かべている。

「ライラとの結婚。お前から名乗り出たことだよ」

「そう思うなら、お前もそろそろ動いてみたらどうだ」

 ルディガーの返事は待たずしてスヴェンはさっさと部屋から去っていった。ルディガーは声には出さず心の中で呟く。

 驚いてるんだよ、これでも。他人にまるで興味ないって態度だったお前が、そこまで誰かに執着を見せるのを。

 これがいい変化だと結論づけるのはまだ早そうだが。ひとりごちているルディガーの元に、スヴェンと入れ替わるようにしてセシリアが戻ってきた。

「やぁ、おかえりシリー」

「ご無事でなによりです」

 なにげなくプライベート仕様で呼んだもののセシリアは顔色ひとつ変えない。ルディガーはやれやれと内心で肩をすくめ、先にセシリアからの報告を聞く態勢を取った。