「・・・・私・・・・・・・望様にとっての・・・価値のない人間になりたくないんです」


「・・・・・・だったら・・・」


「だから・・・・今は放っておいてほしかった。・・・っ・・・きっと、・・・しばらくしたら・・・また・・戻るって・・・」



相変わらずぼやかされて伝えられる四季の心情。


それでも発せられた少ない鍵でその解読を必死で行う。


そして得た答えに僅かに動揺し半信半疑で答えを確認した。



「・・・・・見えないのか?」


「・・・・っ・・・・ごめんなさい・・・」



言うなり再び涙を溢れさせて下の床にその染みを残す四季に茫然とする。


別に四季のその状態にショックを受けたわけでもなく、能力の有無に仕事の危機を感じたわけでもない。


ただ・・・、瞬間的に思ったのは・・・。




「何をそんなに・・・・感情を乱してる、四季?」


「・・・・っ・・・・分かりません・・・」



そう、四季が見えなくなるという事は本人の情緒不安定が問題だとすぐにわかる。


この前の様に激しい感情の起伏でその力が出せないのだろうと結論をだし、思い当たる様な事が無いかと記憶を探れば脳裏に浮かぶ四季の姿にその言葉を本人にぶつけた。




「お前・・・・・香水がどうとか言ってたな・・・・・」




スッと絡んだ四季のグレー。


言われた言葉にその色を揺らし、それでも混乱のまま俺を見つめた。


ああ、もしかして・・・・。



「お前・・・・・覚えてるのか?俺がキスした事・・・・」



その一言にその眼を大きくに開いた四季がなんとか声を発しようと口を閉じたり開いたりするのを眺めてしまう。


だけどすぐに返された四季の言葉に今度は俺が追い詰められようとは・・・・。



「キス?・・・の、望様が・・・・・キス・・したんですか?私に・・・・・」


「・・・・・・」



やってしまった・・・。


確信を持って確認すれば、やっぱり覚えてねぇじゃんかこの馬鹿女・・・・。


うっかり暴露してしまった自分の後ろめたい行動に冷や汗を感じながら四季の驚きに染まっているグレーの瞳を覗きこむ。


相変わらず・・・・透き通る様な綺麗な色に焦っていた気持ちも沈下され。


無意識に伸びた手がその眼に触れてみたいとすぐ横の眼尻に触れた。