自分が泣き崩れた事もなければ、それを慰めた事もない。
こんな風に醜態をさらす女は今までだったら切り捨て放置した筈で。
今もそうすればいいだけの話。
なのに・・・どうすればいいのか真剣に考える未経験の自分。
「・・・・・四季」
苦し紛れに名前を呼べば顔も上げずに首を横に振るその姿。
だから・・・・女は苦手だ。
自分の感情に浸って泣いて・・・・、それにいちいち付き合うなんて無駄としか思えない。
そう・・・思ったのに。
無意識に伸ばした手は四季の頭にふわりと触れる。
細くやわらかい髪の感触をその手に感じ指の隙間に髪の毛を流す。
「・・・・四季・・・・・・・・・分からない」
「・・・・・っ・・・」
「俺は・・・お前みたいに心を読んだりできないから・・・・・言葉にされないと相手の感情なんて知ることが出来ないんだよ・・・・・」
結局口から零れたのは慰めでもなんでもない。
駄目な男の単なる弱音に近い言葉。
そして感じるのは自分の何とも言えない無力さ。
仕事の能力や財力、権威地位、そんな物を振りかざして持ち合わせた巧みな話術で誤魔化しているけれど。
本当はこんな風に泣いてる女の扱いすら分からない欠陥している人間なんだ。
そんなには長くないだろうけど無言が続き、静寂のそこに柔らかく流れる風が俺と四季を横切っていく。
頭に触れた手を離す事も出来ず、そのまま存在を確かめるように不動になればスッと入り込んだ四季の声音。
「・・・・です」
「・・・・・何て?」
あまりに小さく弾かれた声はそれを言葉として聞き取ることが出来ず、疑問の表情で四季を覗きこむとようやくゆっくりとその顔を上げた四季と視線が絡んだ。
泣き晴らし涙の跡が痛々しく感じるほどの顔。
涙で張り付いた細い髪の数本数本。
笑っている時よりもやけに大人びて見えるその表情に少しだけ強く心臓が跳ねてそのグレーを覗きこむ。