「おいっ、働かないなら家賃滞納で立ち退かせるぞ」



扉を開けはなって中に押し入れば、すぐに捉えると思っていた姿が見えない。


疑問に眉根を寄せ部屋を見渡して奥に歩みを進めてみると、ふわりと入りこむ夜風に窓の開放を教えられる。


バルコニーに続くそこ。


逃げるのがとても下手だな。と思いふわりとカーテンが遊ばれているそこから外に出る。


心地いい風に一瞬目を細め、そして横に視線を走らせようやくその姿を捉えて見つめる。



「四季・・・・・」


「・・っ・・・・・」



バルコニーの隅で小さく蹲り背中を向けている姿に近づき背後に立つ。


夜風がさらりと四季の長い髪を攫っては戻し時々見えるうなじやその首の細さに目がとまった。



「おい、熱ある奴が夜風に当たるのか?」


「・・・・・・・」


「とうとう無視かよ。そこまで嫌うほど昨日殴った事怒ってるのか?」


「・・・・嫌ってません。・・・・・あれは事故じゃないですか・・・」


「だったら・・・何をそんなに怒ってるんだ?」




呆れたように声を響かせ何度か繰り返した質問をぶつけると、元々小さいその体を更に小さく縮めて言葉を拒む四季の姿。


その瞬間に溜め込んでいた感情が限界だと四季の腕を掴むと、強引に立ち上がらせその顔を自分に向けさせた。



「いい加減にっーーーーー」


「・・・っ・・あ・・・・」




言葉を言いきれず、不機嫌のままに歪めていた顔から力が抜けた。


強引に捉えた四季はいつもの笑顔でも怒った表情でもなく、その大きなグレーの眼を潤ませ頬には涙が次から次へと伝っている。


驚き固まればじっと見つめていた四季が何かに落胆したようにその顔を歪めてその場に座り込む。



「・・っ・・・あっ・・・・駄目・・だ・・・」



崩れながら零した言葉に上手く頭もまわらず、それでも何とか動揺を落ち着かせると未だにそれを上手く出来ないらしい四季を見降ろしその場にしゃがむ。


床に這う様にして蹲って泣き続ける姿にどうしていいのか分からない。


今までこんな場面を経験したことが無いからどうしていいのか分からないんだ。